デジタルノマドとワークプレイス

 

 

 

 

 

 

陳 禹鳳(チン ウホウ)

1989年台北生まれ、実践大学建築学部を卒業。

2015年に来日し、2020年法政大学建築専攻を修了。

 

IT技術を活用して、世界中を旅しながら仕事する「デジタルノマド」というライフスタイルが、欧米で流行している。先日、デジタルノマドの拠点についての修士論文「遊動領域における拠点の場所性に関する研究 -東京におけるデジタルノマドのコミュニティを対象として- 」を発表した陳さんに、調査対象のカフェでデジタルノマドが選ぶワークプレイスについてお話を伺った。

 

 

 

 

インタビューを行った、デジタルノマドが多く集まる渋谷のカフェ「Fab Cafe Tokyo」の外観。

 

デジタルノマド研究のきっかけ

 

西牧菜々子(以下.西牧)──まず、デジタルノマドに興味を持ったきっかけを教えてください。

 

陳禹鳳(以下.陳)──最初に修士論文のテーマを考えた時には、実はデジタルノマドではなく東京圏のノマドワーカーのことをいろいろと調べていました。現在のノマドワーカーはキャンピングカーで都市を移動しながら、キャンピングカーに泊まって各地で仕事をしています。そのような人たちのことを調べたいと考えていたのですが、東京にはあまりいませんでした。そこで少し方針を変えて、都市の中でノマドワーカーがどのように生活しているかについて調べてみようと思いました。『The Civic City In A Nomadic World』(Charles Landry,2017)という本があり、その中に今のノマドワーカーの種類が沢山紹介されているのですが、その本でデジタルノマドのことを知ったことをきっかけにいろいろ調べ始めました。

 

下吹越武人(以下. 下吹越)──ノマドワーカーの存在についてはいつごろ知ったんでしょうか?

 

陳──以前から知っていました。ノマドワーカーは昔からある職業ですよね。仕事が先にあって、仕事がある場所に行く。そういう仕事のあり方として以前から興味を持っていました。

 

下吹越──キャンピングカーで移動するノマドワーカーではなく、伝統的なノマドワーカーですね(笑)

 

陳──そうですね。そこから始まって、デジタルノマドは時代に合わせて発展してきたことで、新たな集団としてまた出てきました。

 

下吹越──設計事務所で働く人ノマドワーカーが結構いて、ヨーロッパの若い建築家はプロジェクト契約でいろいろな事務所を移動するようです。たとえばザハ・ハディドの事務所のビックプロジェクトを担当して、そのプロジェクトが終わったらレンゾ・ピアノのプロジェクトチームに加わっている。そうやって転々としている人が多いと聞きました。

 

陳──そうですね。アメリカのハリウッドでも、ひとつの映画のプロジェクトが終わったら他のチームに入って別のプロジェクトをやるというかたちで、それと同じような働き方をしている人たちがいます。

 

 

インタビューの様子

 

 

ロケーションに依存しないデジタルノマド

 

下吹越──デジタルノマドはどのように定義していますか?

 

陳──自分の家を持たずにフリーランスや自分の会社を経営しており、パソコンでデジタルに働いて常に世界中を動いている人がデジタルノマドです。そのいちばんの特徴は、ロケーションに依存しないということです。

 

下吹越──どうしてデジタルノマドは転々と移動しているんでしょうか?

 

陳──そういったライフスタイルが欧米で流行っているということもありますが、今はIT技術やインターネット環境の普及により、自分の会社に行かなくても生計が立てられ、生活ができるからです。

 

下吹越──なるほど。価値観として移動しながら生活することを選択している人たちなんですね。そこが普通のデジタルワーカーとは大きく違いますね。

 

陳──デジタルノマドは移動しながら仕事をしている、そこに違いがあります。

 

 

カフェから見た通りの様子

 

 

西牧──日本よりも欧米でデジタルノマドが流行っているとのことですが、実際に調査した結果どこの国の人が多かったですか?

 

陳──実際に私が調査して回答してくれた22人のうち12人がアメリカ人でいちばん多かったです。

 

西牧──半分以上ですね。アメリカ人が多い理由はどこにあると思いますか?

 

陳──それは、アメリカのシリコンバレーでスタートアップする人が多く見られるように、自分の力でなにかをつくる、自分の力を信じて能力を身に着けるという生き方にみんなが憧れている。ひとつの会社で働くのではなく、いろいろな国に行っていろいろな文化を見ながら刺激を受けて物をつくり出す、アメリカ人はそういう考え方を持っている人が多いからだと思います。

 

下吹越──世界中の都市でローコストでネットワークにアクセスできるという状態になったので、移動しながら生活していこうという人たちがデジタルノマドという形で出現してきたということは自然な流れという感じがしますよね。

 

西牧──論文の中で、日本ではコワーキングスペースよりもコーヒーショップのほうがデジタルノマドの人が多くいると書かれていたのですが、その理由と日本以外の国ではどのような状況なのかを教えていただけますか?

 

陳──日本のコワーキングスペースは契約期間が1ヶ月単位で長いため、それよりも柔軟に利用可能なスペースや、出入りやすい場所が人気です。一ヶ所だけではなくて、周りにもいくつかあり、場所を変えて気分転換できるコーヒーショップの利用者が多くなっています。世界でデジタルノマドがいちばん多い国はタイです。バンコクとかチェンマイにコワーキングスペースが多く、短時間からでも使えるような場所があります。

 

下吹越──かつてのバックパッカーの聖地が今はデジタルノマドの聖地になっているというのはおもしろいですね。

 

陳──あとタイはWi-Fiの速度が速くて、通信環境が整備されていることと、自然な景観もよい場所なのでデジタルノマドが集まってくるということが今起きています。

 

 

インタビューの様子。周囲の席ではデジタルノマドの人たちが仕事をしていた。

 

 

 

デジタルノマドが求めるワークプレイスの条件

 

 

西牧──東京の中で、デジタルノマドの人たちはどういうエリアを求めていると思いますか?

 

陳──今は渋谷がいちばん多いですが、これからは下北沢などにも人が集まってくると思います。コワーキングスペースとかコーヒーショップといった、インターネットが使えて、長時間働くことができる空間、そういう所が都心から分散して東京の全域に広がってくると思います。

 

飯田彩(以下.飯田)──ここ渋谷のFab Cafeも駅から少し離れていて、いわゆる駅近ではないですよね。デジタルノマドの人は利便性だけを求めていないし、価値基準がそこではないということですよね。

 

陳──はい、駅から離れている方が観光客が少ないので、かえって使い勝手がよいようです。

 

飯田──なるほど、比較的空いている穴場として狙ってきている人が多いのですね。

 

下吹越──観光ではなく、仕事をするために来ているからね。安価なホテルやゲストハウスが近くにあるという理由もありそうだね。

 

西牧──次に、デジタルノマドの人たちは空間としてはどのような特徴があるところに集まるのでしょうか?

 

陳──空間として大切なのは入りやすさ、日当たりのよさ、広さなどです。デジタルノマドはパソコンを使うので、その作業場所としてモニターやiPadが使えるかどうか。他にも原宿にある人気店Deus Ex Machinaでは、複数のフロアに客席があり、地下室にはデジタルノマドが小さなミーティングに使える空間があったりします。あと座席のレイアウトに多様性がある方が好まれ、お店の奥の方に座る人が多いです。周りに自分と同じような作業をする人が多いところで作業すると安心感が生じると答えてくれた人が多かったです。またデジタルノマドは英語でしゃべることが多いので、スタッフが英語を話せる店にデジタルノマドが集まってくることがわかりました。

 

原宿にある、デジタルノマドが多く集まるカフェDeus Ex Machina の様子

 

下吹越──カジュアルな感じが多いのですか。

 

陳──そうですね。新しい国や都市に行く前に、デジタルノマドのコミュニティサイトでどのような空間や場所が効率がよいのかを情報交換していて、評判のよい所に集まって来ています。

 

西牧──先程、デジタルノマドのイベントや打ち合わせの話が出ましたが、実際デジタルノマドの人たちはどのくらいの頻度でイベントなどをおこなっているのですか?

 

陳──デジタルノマドはフリーランスの人が多くSlackなどの通信アプリケーションを使って、ひとつの場所に集まり、その場所に来た人とコラボレーションしています。例えばFab Cafeでは夜になると様々な企業がやってきてイベントを開催しています。頻度としては、場所によって違うのですが、1ヶ月や1週間単位でやっているところが多いです。

 

下吹越──Fab Caféのイベントというのは、自主企画と持ち込みで企業が主催するイベントではどちらが多いですか?

 

陳──ここだとFab Cafeが主体的にイベントをやっています。3Dプリンターの使い方のワークショップなど、デジタルノマドとは関係ないことも行われています。でもデジタルノマドのフリーランスの人やスタートアッパーが集まって意見を交流しています。

 

 

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