郡上八幡の町家から着想した店舗併用住宅

 

藤沢百合さん

 

■藤沢百合  株式会社スタジオ伝伝 代表取締役 岡山県生まれ。マンションディベロッパー、設計事務所勤務を経て、スタジオ伝伝を設立。

 

「欅の音terrace」の企画・仲介を担当された藤沢百合さん。岐阜県の郡上八幡を拠点に古民家の活用や地域活性化のマルシェの運営などさまざまな活動をされており、藤沢さんの提案された店舗併用住宅のアイデアが、今回の「ナリ間ノワプロジェクト」のコンセプトとなった。そこで店舗併用住宅のアイデアを提案された経緯や狙いを伺った。

 

 

川田優太郎(以下.川田)──どのような経緯でこのプロジェクトに携わることになったのでしょうか?

 

藤沢百合(以下.藤沢)──オーナーの池田佳瑛さんは私が独立する前に勤めていた会社の時からのお客様です。独立後もイベントを開くと来てくださり、交流関係がありました。ある日、「欅の音terrace」のご相談を受けて参加することになったんです。しかし私が郡上八幡で仕事をしていて、頻繁に現場に立ち会うことができないので、以前からのお知り合いでしたつばめ舎建築設計さんにもお声がけしてプロジェクトがスタートしました。

 

川田──店舗併設アパートのアイデアは、どのような理由で提案されたのでしょうか?

 

藤沢──池田さんから「物件の半数が空室になってしまった。歳をとるにつれて多くの物件を管理するのは大変だ」と相談を受けました。特に最近では入居者がインターネットの不動産仲介サイトを介して契約することが多いので、大家が入居者と顔を会わせることがない、道で会っても誰だかわからない状態なんです。そこに疑問を感じて、入居者とコミュニケーションを取りたいと希望されていたので、アイデアを練りました。そして、コミュニケーションのきっかけとして、郡上八幡のように「建物の前で生業、後ろで暮らす」、町屋形式を参考にしました。商売をともにすることで入居者同士にチームワークが生まれるんです。隣同士が壁を共有する建物形式は、隣の生活音が聞こえやすいといったデメリットはありますが、何かあった際には、状況が分かるため、すぐに誰かが助けに来てくれるプラスの面もあります。郡上八幡のような町家の魅力は、東京の都市の中でも通用すると思っています。生業を持ちたい人はどこにでもいますし、そういうところがコミュニケーションの一端となっておもしろいんじゃないかなと提案しました。

 

川田──藤沢さんは岐阜県の郡上八幡でもマルシェを企画されていますが、郡上八幡と練馬で地域性や人々の参加の仕方に違いはありますか?

 

藤沢──郡上八幡の方は垣根なく、いろいろな年齢のさまざまな方が立ち寄ってくださいます。町屋の縁側で、みなさんは日向ぼっこをしながら会話を楽しんでいます。一方、練馬は、工事中から地域のみなさんが見学に来てくださいましたが、遠巻きに見ているように感じました。これからマルシェをやっていくためには、もっと内へ入ってきやすいように地域に受け入れられなくてはいけないと思ったんです。そこで大家さんの発案で、マルシェのご挨拶や割引券を配ったりといろいろな工夫をしました。すると、近くの老人ホームの入居者さんがお孫さんを連れてきたり、お散歩がてらにお店で買い物したりと、気分転換に来てくださるようになりました。今では新しく知り合った人同士がすぐに別の方と顔見知りになって、次から次へと繋がりが広がっていっています。

 

ナリ間ルシェイベント──流しそうめん

 

下吹越(以下.下吹越)──入居者を集めるために、どういった方法でリーシングをされたんでしょうか?ブランドイメージが確立された活発的なエリアであればすぐに認知されますが、練馬のような新しい活動が少ない場所で、最初にプログラムを立ち上げて周知させるのはすごく大変じゃないかと思いました。また、入居された方もどのようにして募集情報を入手したのか不思議に思っています。

 

藤沢──最初はSNSで宣伝をして、次にチラシをつくって、人海戦術で興味をもってくれそうな人の出入りする場所に自分たちで配りに行きました。不動産会社の案内だけに頼ってしまうと、コンセプトが伝わりにくかったり、デメリットになる部分はあまり教えてくれないんです。本来は、デメリットの部分をきちんと希望者の方に伝えることが大切なところです。欅の音terraceは自主管理なので一見面倒だと思われますが、みなさんで清掃することで共同体として意識が芽生えてきますし、コミュニケーションのきっかけにもなります。それをしっかり伝えて、それでも入りたいという方に「ここでどういう夢を実現したいですか」、「不安なことは何ですか」など、さりげなく伺っています。

 

下吹越──なるほど。時間をかけて丁寧に広めているんですね。あと、適正規模についてもお伺いしたいと思います。ここは改修なので入居者数は定まってしまいますが、今回のプロジェクトをスタートさせる際に住戸数の適正規模はどのように捉えていらっしゃいましたか?

 

藤沢──人数が少なくても多すぎてもコミュニティとして成立しないと思うので、今回の13戸は適正な数と捉えました。活動していく中で、生活や商売などの課題もいろいろと見えてきましたが、その辺もおもしろいなと思っていて。「商店街はこういう風にできあがっていくんだ」という発見だらけです。一から商店街をつくっていく人たちの様子や過程を見ることができて、とても興味深いです。

 

飯田──これから少しずつ欅の音terraceのような活動拠点が増えると、よりこのエリアが動き出すと思われます。すでに何か具体的なプロジェクトは動いていますか?

 

藤沢──これからアパートを建てようとしている方から相談がきています。そういう方たちとも欅の音terraceように何かしら似たようなコンセプトでつくっていけたらと考えています。そうなるとますます他とは違ったおもしろい街になりますし、何か広がりの可能性があるのかなと感じます。

 

下吹越──もう少しコミュニティ拠点施設の数が揃ってくると、突然、地域一帯が化けるような感じがありますね。欅の音terraceができて、間違いなく地域コミュニティが変わっていくだろうという予感がありますし、さまざまな相性の方が集まっていてすごくおもしろいなと思います。

 

藤沢──私は計画するときも「こういう人に届いてほしいな、入って貰いたい」と、具体的なイメージを決めて、その人が入るためにはどういった間取りが最も適正なのかを考えました。だから「こういう人が入るとこういう暮らしができます」とリーシングの時も具体的に提案しました。経験的に賃貸の場合、入居希望者の方は言葉で説明されても、そこでの暮らしのイメージをしづらいんです。そこで、人は絵を見るとイメージが掴みやすいので、シーリングのために細やかなディテールまでこだわって、みなさんに(イラスト担当はイスナデザイン 野口理沙子さん、一瀬健人さん、グラフィック担当は富岡克朗さん)イラストを描いてもらいました。

 

暮らしのイメージのひとつ(ナリ間ノワプロジェクトホームページより)

 

飯田──ホームページで全住戸分のストーリーや家具配置、年齢、何をやっている人が暮らしているのかと例を細かく掲載されていますね。だからみなさん、「そうか、ここはこういう家具配置にすれば私がやりたいこともできる」といった、かなり綿密なシミュレーションをして選ぶことができるんですね。

 

下吹越──入居者の方に、そのくらい丁寧にコンセプトや考え方を伝えることが秘訣なんですね。

 

藤沢──最初の取っ掛かりで絵があると、そこでの暮らしが想像しやすくなりますし、実際に私たちが想い描いていたような暮らしにもなったりするんです。ここでの暮らしを見ていいなと思ったのは、みなさん家族みたいになっていることです。たとえば、みなさんで買ってきたものや仕送りされてきたものをお裾分けしたり、入居者のご夫婦に赤ちゃんが産まれるのを、みなさんが自分の家族のようにとても楽しみにされていたりするんです。

 

飯田──この場所の暮らしを想像しやすくなることによって、何もなかったところにどんどん賑わいやコミュニティが生まれやすくなるんですね。自分たちで街をつくっているという実感をすることによって、より一層、みなさんに愛着が湧くんでしょうね。

 

藤沢──役所の方から「欅の音terraceさんは公的な助成金やプロジェクトで活動しているんですか?」と聞かれるほど、ここの街への開き具合は個人事業とは思えないようです。入居者さんが後押しして応援してくださったり、「この場がより発展してくれたらな」、「景気が盛り上がってくれたらな」とそういう視点があるからできていると感じます。

 

飯田──ちゃんと自分の街を守るという意識があって、次をどうのようにしていくのかを真剣に考えられているんですね。補助金がなくなったとたんに、自力で継続できないプロジェクトがたくさんある中で、はじめから公的支援をあてにするのではなく、自力でどう継続的にやれるかという意識はすごく重要ですよね。

 

マルシェの日にインタビューさせて頂きました。

 

藤沢──ここはあれこれやっちゃダメといった規制がない代わりに自主管理なので、住宅地の中でしっかりと商売をしていくための取り組みといった課題も、これからいろいろと出てくると思うんです。そういったことで生じる変化の積み重ねによって、ひとつの小さな街ができあがっていく。これからの経緯というものがすごく勉強になると思います。それから、こういった生業をコンセプトにしたプロジェクトを他にもやっていこうと考えています。地域内でいくつかあることで、一緒にマルシェをやったり連携によって相互に認知されると、地域全体が盛り上がってくるのかなと思います。また、ブランドが確立した地域ではなく、まだ確立されていない場所で別の価値観をつくることができたらおもしろいなと考えています。生業を中心に各地で新しい魅力が生まれ、いろいろな人が集まることによって、コミュニティが繋がっていけたらなと思います。

 

 

 

[2019.08.03,欅の音terraceにて]

インタビュアー:下吹越武人・飯田彩・川田優太郎・イン チユ・桜本知佳

文責:川田優太郎

 

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