街全体を仕事・生活のフィールドに

 

403architecture[dajiba]

2010年に開催された浜松建築会議への参加を機に2011年より静岡県浜松市を拠点とし、活動を始め、現在に至る。

左から順に、彌田徹さん、辻琢磨さん、橋本健史さん

 

 

事務所から徒歩圏内にプロジェクトが集中しており、当時浜松市で目立っていた空き部屋、空きテナント等の空きスペースに着目し、独立当初は設計から施工まで自らで行うなど、従来の建築設計事務所とは少し違った形で活動を行っている。地方都市を活動拠点にすることから見えてくるこれからの働き方の可能性について403architecture[dajiba]の彌田徹さん、辻琢磨さん、橋本健史さんのお3方にお話を伺った。

 

 

 

活動経緯

 

事務所でのインタビューの様子

葛西孝憲(以下.葛西)──まず初めに浜松で活動を始めた経緯を教えてください。

 

辻琢磨(以下.辻)──きっかけはいくつかあります。最初は2009年の冬に、僕も含めた浜松出身の建築関係者の集まりがあり、そこで静岡県西部地域で活動されている方々がメインで地域の建築界を盛り上げるようなことをやってみようという話になりました。その集まりに参加していた静岡文化芸術大学の建築系サークルのリーダーの学生が一緒に何かやりましょうと声をかけてくれて、浜松建築会議というシンポジウムとワークショップをやることになったのがきっかけのひとつです。そこから、月1回くらい浜松に来て学生とディスカッションや空室のリサーチを通して、最終的には翌年にギャラリーや休憩スペースなどを4カ所展開し一定期間利活用しました。その4カ所の空室のオーナーさんや、隣のテナントさんなどと仲良くなっていくことで、後々のクライアントになるような人たちと知り合うことができました。その後、2011年の春に独立したという流れです。

 

下吹越武人(以下.下吹越)──東京近圏を離れて浜松を活動拠点にする方が可能性があるのではないかと思ったとのことですが、もう少し詳しく聞かせてください。

 

橋本健史(以下.橋本)──僕たち3人は横浜国立大学の同期ですが、403architectureというチームは大学院のときに結成し、当時は6人組でした。大学院で色々スタジオをやっていると、規模の大きいプロジェクトを考えるということを日々やるわけですけど、一方でもう少し自分たちの手で試行錯誤しながらつくるような、具体的に物をつくりたいという思いがふつふつと湧いてきていました。そこで、ともかくある程度の人数が集まれば、マンパワーで何か出来るんじゃないかという期待で、6人でチームをつくったわけです。そのチームの活動内容はとにかく自発的に枠組みを考えて、実際に物をつくるということでした。その経緯もあって、事務所設立から1年間くらいはセルフビルドでいろいろなものをつくっていました。この事務所も自分たちで度々手を入れています。浜松で始めようと思えた大きなポイントは、ともかく使いみちに困っている空間が大量にあって、それらをガンガン改造していけそうだったことです。建物を一からつくるというよりは、ある意味では壊すことができる環境が広がっているので、壊すことを通じて都市そのものから学ぶ、みたいなことがこの場所でなら出来るのではないかという感覚があったんです。大学院を修了するとどこか設計事務所に勤めるのが一般的だと思いますが、そうじゃないやり方で「つくる」ということを手探りで考えていくということに、おもしろさを感じていました。

 

辻──僕は大学院を卒業し、3人で独立すると決める前に、個人で浜松のまちづくり活動を始めていました。浜松建築会議の時より踏み込んで街場で実践していると、可能性がありそうだなと思えてきて。

 

403architecture[dajiba]が入居している建物

彌田徹(以下. 彌田)──僕は大学院のときに地方で働きたいなとは思っていて、具体的にどうしようかなと考え始めた矢先に、浜松で独立しないかと辻に誘われました。いきなり独立はどうなのかなと思いながらも、大学時代に3人で仕事ができたら面白そうだねと言っていたこともあり、いずれやろうと思っていたことが早まったのだと割とすんなりと浜松にきました。2010年に浜松でワークショップをやったことで、知り合い位の関係ですが地域の人との繋がりができ、生活するイメージが出来たので、すんなり馴染めた気はしますね。

 

橋本──初期のプロジェクトのクライアントは中心市街地で個人で商売をやられている方が多いのですが、個性的なクライアント同士がゆるく繋がっていて、人も含めておもしろい場所だなと感じました。

 

下吹越──地元の人的ネットワークにアクセス出来たっていうのは本当に大きいかもしれませんね。

 

美容室「enn」オーナー林 久展さん(奥)

葛西──403architecture [dajiba](以下.403)のウェブを拝見していると、お施主さんとの距離が非常に近いなと感じました。人が自然と集まってきて、それからコミュニティが広がっていくのが浜松の特徴なのでしょうか?

 

辻──浜松の人は“広げる”ということをあまり意識していないと思います。普通にライブのイベントに行って、コミュニケーションをとっていたら自然とお客さん同士で仲良くなっていたり。定期的にそういうイベントをやっているというのもあるのだと思います。常に同じような場所にいて、たまに会って話したり、徐々にコミュニティが広がっているけれど、そのスピードはすごく遅い。その遅さが大事なのかなって思います。広げていくことを目的にするなら、どんどん拡大していくことはできると思いますが、ただただ拡大していくと、単なる名刺交換会みたいになってしまって、何も生まれないと思うんですよ。定期的に会いながら、お互いの現状を報告しあって、この前こういう人がいてって紹介すると、次また会ったら声かけておいてよという風に何らかの具体的なつながりとして広がっていくんです。「広げる」というか「広がる」、その違いは重要だと思います。あとは、商いですよね。商業者にとってはコミュニティが広がることがそのままブランディングになり、お客さんも増えることにもなる。そういう、食べていかなきゃいけないというのと楽しむというのが自然に両立できる人達が周りに多くて、そのことに関しては本当に学びが多いです。

 

下吹越──昔僕の祖父母が地方の商店街で美容室をやっていて、一時期そこで何年か一緒に暮らしていたんですけど、商店街の人達は仕事と生活が完全に一体化していて、呼吸をするように仕事をしているし、店も茶の間も変わりなくくつろいでいる。そういう人達は自分がより快適で楽しく過ごすための工夫にはすごく貪欲だけれども、儲けるために何かを改善するという意識はほとんど無いような感じがして、今振り返って考えると、拡大という概念が無いような気がします。知り合いは増えたけどもネットワークは拡大していないというのは不思議なスケール感覚というか捉え方をしているような感じがするんですけどいかがでしょうか?

 

──業種にもよると思います。それこそ、僕たちも近所の美容師さんとお蕎麦屋さんによくしてもらっていて、3人ともその美容室に行って髪を切ってもらっています。そこで、知り合いの面白い人を紹介してもらって、仕事のチャンスにつながることもありますね。またお蕎麦屋さんでは、東京から浜松にゲストが来たら案内して、お蕎麦を食べてもらいつつ自分たちのプロジェクトも見ていただけます。建築設計は日常的にコミットする性質の仕事というよりも、たとえば設計から施工の1年間定期的にコミュニケーションをとって、完成後はそれ以上深い関係にならないという関係が多いと思います。そういう意味では、美容師さんだとかお蕎麦屋さんのお金のもらい方や、お客さんとの付き合い方が羨ましく見える時もありますね。仕事でのつながりが日常生活の一部になって、その中でお金のやりとりをすることが自然とできる。建築設計の経験を積むほど、その関係がいいなぁと思います。

 

美容室ennのインテリア
美容室内にある休憩室「三展の格子」

下吹越──また身内の話で恐縮ですが(笑)、僕の母は一人で暮らしていますが、母のいとこで電気屋をやっている人が実家の家電のすべてを把握していて、何か調子が悪かったりすると直すか買い換えるかも全部その人が判断するんです。だけどそこには商売という感じはなくて、家全体のメンテナンスをしているって感じで、すごいんですよ。とにかくちょっと調子が悪いって母が言ったらその翌日には家電が変わっていたりするんですよ。勝手に家に入ってテレビ買い変えておいたよとか。最初の頃は話を聞いてびっくりしたんですが、でもそれはうちの母の生活をよくわかっていて、この人にはこれ以上は必要ないし、最低限この機能を更新すればいいだろうという感じなんです。ああいう仕事の仕方ってすごくいいよなって思うんですよね。全然仕事してる感じじゃないけれども、結果的にそれは生業の一部になっているような。

 

403の3人が通うお蕎麦屋「板屋町の壁紙」                                                                                                                                                             photo:kentahasegawa

彌田──そこまでではないかもしれませんが、たとえば先程の美容師さんは住んでいた部屋の一部だけを改修したあとに、美容室の休憩スペースを作って欲しいと依頼してくれました(「三展の格子」2011年)。最近でも別の美容師さんですが、美容室の待合所を作った後に、自宅の改修をお願いして頂いたりとか(笑)。同じお施主さんに継続して関われる仕事があり、面白いなと感じています。その後の関わりも含めて、広く捉えるとメンテナンスということかもしれません。

 

下吹越──今の話の“メンテナンス”というのは、一般的なメンテナンスとは意味が違いますよね。

 

辻──そうなんですよね。たとえば調子悪いから直しに来てくれって言われることが、億劫じゃない感じはあって。修理しに行くこともあるんですけど、そうするとお施主さんと会話するきっかけになるし、その時に違う情報を交換したりということもあるので。

 

橋本──そもそも依頼される内容もあまりはっきり決まっていないことが多いです。こういうふうに使うから何部屋欲しくて、お風呂と洗面所はこんな感じで、テラスは南に何平米ほしい、みたいなオーダーがパシッと決まっていることはほとんどなくて、何となくここをもうちょっと上手く使いたいんだけれどとか、ぼんやりした状態で相談が来ることが多いですね。

 

 

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