利便性よりもつながりを求めて

 

左から山本ケイコさん、長谷川直子さん、清水淳さん

 

  • 山本ケイコさん
    佳子環境デザイン室一級建築士事務所代表、かざはやファクトリーでワークショップ活動を行う。
  • 長谷川直子さん
    ta&co代表、かざはやファクトリーの冊子編集を行う。
  • 清水淳さん
    アーキラボ一級建築士事務所代表、かざはやファクトリーの管理人。

 

神奈川県三浦郡葉山町にある「かざはやファクトリー」は、建築やものづくりなどをはじめとする異なるバックグラウンド、職能をもった人たちが集まるシェアオフィスだ。古民家を改修した仕事場には、現在14名の入居者がいる。豊かな自然に囲まれた気持ちのいい仕事場だが、なぜ都心ではなく葉山の住宅地にシェアオフィスをつくったのだろうか?管理人で古民家の改修を行った清水さんと入居者の山本ケイコさん、長谷川直子さんにお話を伺った。

 

 

近藤有希子(以下.近藤)──まず、かざはやファクトリーのこれまでの経緯について教えてください。

 

清水淳(以下.清水)──もともと僕自身は自宅で仕事をしていて、どこか外に出て行かないといけないなという意識がありました。それで、3年くらい事務所になりそうな場所を探していました。どうせ自宅を出ていくならシェアオフィスをつくりたいと考え、仲間数人で丁度よさそうなところがいくつか候補に出てきましたが、どれも大幅に改装しないと成立しませんでした。そんな時にかざはやファクトリーの古民家に住んでいたおばあちゃんが亡くなり、空き家になってしまいました。そこでおばあちゃんの息子さんに声をかけ、貸していただいたという経緯です。そのあと、半年くらいかけて改装をしました。

 

下吹越武人(以下.下吹越)──スタート時は何名の方がシェアされていたのですか?

 

清水──一緒に探していた人達とは結局折り合いがつかず彼らは別の場所でオフィスを構えたので、最初は1人でスタートしました。スタート後、3〜4カ月で全10席が埋まったと思います。当初、僕としては3、4人くらいで仕事をしている集団が借りてくれないかなと思っていました。そうすればプラン上は廊下が短く済むからです(笑)。しかし、そういうニーズはほとんどなく、1人当たり1坪がいちばん需要があり、そういうブースが足りなくなってきたので再度廊下を増やして対応しました。当初は10ブースくらいだったのを今は、13ブースに増やしています。併設する小屋も貸して欲しいと言われたので貸しています。

 

下吹越──小屋もオフィスとして使われているのですか?

 

清水──いえ、工房として利用されています。

 

下吹越──入居者の募集は、どのような方法で行ったのでしょうか。ウェブサイトですか?

 

清水──最初はウェブサイトです。その次にフェイスブックとチラシですね。あとはもう口コミですね。1人入ったら、その人が誰かを連れてくる感じです。もともと知り合いの方が次々に入居されました。

 

下吹越──チラシはどこで配られたのですか?

 

清水──チラシを置いてもらうのは、知り合いのお店でした。こういう人達でシェアオフィスを始めたということを丁寧に説明し、人を集めていく感じでした。その説明を受けた人が同じように他の人に説明をしてくれて、じわじわ広がりました。結果的にいい人が集まってくれましたね。

 

近藤──あえて葉山という土地でシェアオフィスをするメリットやデメリットは感じますか。都心部との違いはあるでしょうか?

 

清水──葉山にはフリーランスで仕事をしている人が多くいます。家で仕事をし、取引先が東京にあることが多いので、横浜でオフィスを借りて週に2日から3日だけ東京に出たりします。現在のメンバーは葉山から東京に向かい、帰りにふらふらとかざはやファクトリーに寄られる方が多いです。そういう意味で葉山にはシェアオフィスの需要があると思います。ただ、他の地域から入ってくるのはハードルが高いかもしれません。今、東京の人が1人いらっしゃるのですがあまり来ませんね。鎌倉の人はバイクで来ています。また逗子市の人が2人、自転車で来ます。あとは歩いてきている人がいますね。

 

下吹越──なるほど。鎌倉、逗子、あとは葉山近郊や近所ですか。

 

清水──このかざはやファクトリーのようなシェアオフィスが東京にあったらどうなるだろうというのは、想像がつきません。意外に経営のハードルが高いのではないかという気がしますね。競合が多いので、そこで生き残れるかなとか…。鎌倉にはシェアオフィスがいくつかあるのですが、おそらく鎌倉と葉山は場所性がまったく違うので、競合にはなりえないなと感じています。

 

下吹越──自宅から出て行こうと決めた時、シェアオフィスをつくりたいとお考えになられた理由やきっかけがあれば教えてください。

 

清水──自宅で仕事をしていると1日中人と話さない時があります。普段あまりにも話さないので電話していてもとっさに言葉が出ないのです。それがとにかく嫌でした。

 

下吹越──なるほど。僕も自宅で仕事をしていた経験があるのでよくわかりますが、無性に人と話したくなりますよね。打ち合わせ以外に人と話す機会がないから、その切実さはよくわかります(笑)。

 

清水──そういう人がほかにもいるだろうなと考えました。

 

下吹越──でも清水さんには、都心部のシェアオフィスを借りるという選択肢もあったわけですよね。そうではなく葉山でシェアオフィスをつくろうと思ったのはなぜでしょうか?

 

清水──もともと僕は東京で働いていて、東京に住んでいました。電車がなくなっても帰れる場所に住んでいました。子どもができた時に葉山に引っ越してきて、しばらくは東京に通っていたのですが、その通勤時間がもったいないなと感じるようになりました。東京に行く必要がないとは言わないけど、行かないで済むなら行かなくていいかなと思い、自宅で仕事を始めました。

 

下吹越──東京と葉山という全く違う場所で、環境が変わると仕事の内容や取り組み方が変わりますか?

 

清水──変わりますね。葉山はあまりがつがつしている人が少ないように感じます。私自身、無理はしないし、人生における仕事の優先順位が下がったように思います。仕事以外にもっと大事なことがあるのではないかと感じるようになりました。

 

下吹越──仕事の効率性を重視するライフスタイルに無理があるのかもしれないですね。この空間にいると生活の延長として仕事が捉えられているのかなと思います。ここに居られる他の方々とは、定例的に催し物をしたり、会議をしたりなどの決まり事はありますか?

 

ここで、山本さんがお茶を持ち登場

 

山本ケイ子(以下.山本)──ありますね。月1度とか決まってはないですが、イベントをやる前に会議しようとか、昼に集まってごはん食べようとか、飲み会もありますし。メンバーの8割から9割は集まります。

 

下吹越──これだけ様々な職種と仕事のペースが違う人たちが集まるシェアオフィスを運営するには、相応のノウハウが必要ではないかと思います。コミュニケーションをとるうえで一番気を遣っていることはなんですか?

 

清水──顔を見てコミュニケーションをとるということでしょうか。

 

山本──細かい気遣いですね。そうやって小さいトラブルを回収するのは大切ですよね。

 

下吹越──これまでメンバーの入れ替えはありましたか?

 

山本──事情があって退去されることが時々あります。そうすると、「誰か入居しそうな人いない?」という会話から「いるよ!友達が待ってる! 」といった風にメンバーが入れ替わっていきます。

 

下吹越──メンバーが所有する入居待ちリストみたいなものがあるのですね。入居審査みたいなものは、清水さんがおひとりでやられるのですか?それとも全員の合意がないとだめですか?

 

清水──基本的には僕がしています。とはいいつつ誰かしらの知り合いですから厳格な審査ではありません(笑)。あとは、その場に居た人にどう思う?みたいな感じで聞くこともあります。

 

下吹越──メンバーの方で、東京にもシェアオフィスの拠点を持っている方がいるそうですが、その方の東京とこことの使い方の違いはあるのですか?

 

山本──その方は、鎌倉に住んでいて東京でしょっちゅう打ち合わせがあるのですが、東京のオフィスはコワーキングスペースを利用しているようです。それまでは、打ち合わせと打ち合わせの間、ルノアールやマックへ行くしか居場所がなかったそうです。しかし、1つ居場所があると、空き時間も落ち着いて仕事ができる。ここは、東京に行かないとき、没頭して執筆作業をするために使っています。ここに来ている間はひたすら書いて書き続けて、あとは東京に行って打ち合わせしています。

みどりに囲われたかざはやファクトリー

 

下吹越──はじめに、かざはやファクトリーを知って疑問に思ったことは、都心部のシェアオフィスと郊外のシェアオフィスの違いは何だろうということです。都心部のシェアオフィスは、メンバーが更新していくことで新しい人と出会ったり仕事上の接点が出来たりと常にチャンネルが変化することが1つの魅力で、そのために居場所をキープしている人がいると聞いたことがあります。しかし、おそらくここはその逆で土地柄上、ある程度メンバーが固定されてしまうのかと思いました。それはそれで家族的な仲間が出来上がるのでいいとも思いますが、一方でメンバーがあまり更新しないというのは運用面でご苦労や煩わしさがあるのではないかと思ったのです。この恵まれた自然環境は、誰でも共感できるし、憧れますが・・・。先ほど伺ったルールの問題も、誰かが抜けて新しく入るとき、その方によっては新しいコミュニティの中に単身飛び込むわけですよね。そのコミュニティに馴染むためにお互いが気を遣っていらっしゃるでしょうし、葉山ならではのご苦労があるのではないかと思ったのですが、いかかでしょうか。

 

清水──ご苦労(笑)。

 

(一同笑い)

 

山本──ご苦労ありますか?(笑)

 

清水──ここの人は、皆、”人が好きな人”が多いと思うんです。だから、気を遣っている、気を遣いあっているっていうことになるのかも知れないんですけど、僕が何かしなくても上手くいっていますよね。ここだけで会う間柄でも無いような感じだし。例えば、他の団体にも僕ら2人とも所属していたりとか、後は共通の友人がいたりとか、新しく入ってくる人も葉山町の人だったりするので、この中のコミュニティで完結しているというわけではありません。

 

下吹越──葉山にいると、なんらかの形で繋がっていくんですね。

 

山本──そうですね。繋がりの中から紹介しあったりですね。でも、葉山の人は基本的に干渉されたく無いというか、そういうとこありません?(笑)

 

清水──うんうん(笑)。

 

山本──フレンドリーだけど一線は超えたく無いみたいな。踏み込んでいかない部分がそれぞれあって、お節介すぎない。そういうところがあるのかな?

 

下吹越──そういう都会的なつきあい方が、むしろ良いかもしれませんね。

 

山本──だから一緒に何かしようっていうことが苦手な人種が集まっているような気がします。

 

清水──なるほど。団体行動はできないみたいなね。

 

山本──今日もメンバーが少ないですけど、かざはやファクトリーに来ても、私と清水さんしか居ないような日も多いし(笑)。居てもあと2、3人です。だから気を遣うほど煩くもないです。

 

下吹越──なるほど。この空間で3、4人だったらつかず離れずの距離感でちょうど良さそうですね。

 

山本──そうですね。

 

下吹越──皆さんそれぞれ仕事を抱えていらっしゃるのだから、メンバー全員がここに居る方が珍しいんですね。

 

山本──打ち合わせとか、現場とかもあるし。

 

清水──あとは、先程の東京に比べてここは代謝がないというお話ですが、代謝といえばコワーキングに近いのかなと思いました。

 

下吹越──そうですね。シェアよりコワーキングの方が近いかもしれません。

 

 

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