小さな多拠点・多角経営

[After Talk]

 

馬場正尊さんをゲストに迎え、インタビューの内容を振り返りながら、これからのワークプレイスとは何かを考えます。

 

飯田──これは、表通りの戸越銀座商店街ではなく、脇に入った観光客はあまり入ってこない宮前商店街が舞台だということがポイントですね。OWANの大塚さんもspread itの林口さんも、自分達にとって宮前商店街の方が魅力的だったから選んだだけで、街起こしや街づくりをしているつもりはないとおっしゃっていたのが印象的でした。

 

下吹越──ことを始めたらいろいろなネットワークができてきて、そのつながりを手掛かりに少しずつ身の丈にあった活動拠点を広げているという感じでした。コンセプトや事業計画が先にあって、それを維持しようというよりも、人と場所が偶然フィットすることによって活動が起き、もしどちらかが欠けた場合は活動内容も変えているようです。

 

馬場──カスタマイズするのですか?

 

下吹越──そうです。たとえば大塚さんはMR.COFFEEという珈琲焙煎店をやっていたのですが、今はそこでの小売りはやめて事務所にしています。

 

飯田──現在のMR.COFFEEは、焙煎機の横にMacが置いてあって、大塚さんが仕事をしているという不思議な光景です。焙煎した豆は、PEDRA BRANCAという自身が経営する喫茶店で出し、小売りもしています。spread itの珈琲もMR.COFFEEのものですね。

 

下吹越──僕が驚いたのは、林口さんは建築家でspread itを事務所にしていますが、実は日本橋にもうひとつ設計事務所を持っていて、2拠点で活動していることです。日本橋の事務所ではオフィスのリノベーションを中心にやり、それ以外の仕事をspread itにある個人事務所で受けていて、戸越と日本橋を行き来しているようです。また、奥さんがアーティストなのですが、やはり別の場所にアトリエを持っていて、2拠点で活動されています。大塚さんも基本的にはデザイナーとしての仕事をされているのですが、戸越で3店舗を構えています。みんな多角経営化しているのが特徴です。

 

馬場──なるほど、小さな多角経営は合理的だと思います。どこかの仕事がなくなっても、こっちには仕事があって、というバランスを取っていられますよね。

 

下吹越──多角経営を展開する際に、リソースがいっぱいある地域を拠点として、そこから地域や人のコミュニティの中に入ってネットワークを築きながら、ちょっとずつ仕事を発見していますよね。広げようと思っているわけではなく、偶然というかたちで広がっています。

 

馬場──それが無理をせずに続く秘訣なんですね。

 

下吹越──このやり方はとてもおもしろいと思いました。第1回の403 architecture dajiba(以下、403)の話にもつながりますが、場所に縛られているわけではないけれど、場所の持っている潜在的な資源をうまく使いながら、彼らにとって快適に、そしてゆっくりとその場所に定着していくような感じがあります。

 

馬場──きっと、固定概念が薄いため、状況や空き空間、経済的な要請、自分の暇具合など、さまざまなことをチューニングして、形を変えながらやっていけるんですね。片方を広げ過ぎたら引っ込めて、そんな力の抜けた感じがいいですよね。

 

下吹越──それもすごく現代的だと思いました。403のような強烈な批評性ではなく、ゆるい批評性ですよね。街づくりという言葉やコンセプトを掲げませんというのは極めて批評的な態度ですが、それが個人的な感性に合っているからという理由でゆるく展開していくところもおもしろいと思いますね。

 

馬場──もしかするとそれは、ある面積の物量を超えていった時に、図らずとも何らかの社会的なエピソードを帯びることもあるかもしれませんが、だからといって彼らがそれを熱く語るわけでもなさそうな気がします。

 

下吹越──そうですね。戦略が必要な物量になった時にどのように展開していくかが気になりますね。

 

馬場──立ち位置とスタンスが微妙に違うため、新しい組み合わせと新しいつながりが、奇想天外という予測不可能ななにかがつながっていくところが、現代だなという気がしますね。

 

[2018.09.25,open Aにて]

インタビュアー:下吹越武人・飯田彩・吉田育未・熊谷浩紀・近藤有希子・万柳慧・

葛西孝憲・川田優太郎・畠山かおり・大江和希

文責:飯田彩