小さな多拠点・多角経営

「spread it」について

 

林口──戸越に引っ越してきたのが6年前で、spread itを開店したのが1年半前の2017年です。まず3年ぐらいここに住んだ後、結婚したタイミングで2人ともそれぞれやりたいことができるスペースを持ちたいという流れで場所を探し始めました。
spread itは戸越銀座商店街から少し奥に入った宮前商店街にあります。この街では戸越銀座商店街が対外的には知名度があって、テレビのロケが入っているのもよく見かけます。でも僕たちは、最初から戸越銀座商店街というよりは、戸越銀座から戸越公園の間辺りで、1年間くらい場所を探していたんですよ。

 

飯田彩(以下.飯田)──ここは以前は何屋さんだったんですか?

 

林口──警備会社の事務所か何かが入居していたそうです。実は壁天井は既存のままなんですよ。このスケルトンの状態で貸し出されていました。

 

下吹越──道路側の建具はあったんですか?

 

林口──建具も入っていないですね。なので、シャッターを開けるとファサードがない状態 だったので、家具類とファサードはこちらでつくるというような形でしたね。ちなみにここは、長方形の平面を台形状に分割するように斜めに壁が入っています。もともとの建 物の性質上どうしても水回りを間口から見て左半分側に配置せざるを得なかったので、水回りは全部左側に寄せて、床の防水の塗装も斜めの壁に沿って一直線状に切り替えてあってそのまま奥のトイレまでずっと続いてるんです。

spread it 平面図

 

spread itの説明をする林口さん

葛西──サンドイッチ屋と事務所を併設されているのはなぜですか?

 

林口──ちょっと美味しいコーヒーやパンを食べながら打ち合わせしていると、コミュニケーションが単純に柔らかくなるというかネガティブなことがなくなると思っていて。一方で、会社の会議室が会議で使っていない時はずっと空いてるのも気になっていました。そういった経験から、自分で設計事務所をつくることになったら、美味しいコーヒーを飲みながら打ち合わせができる場所をつくって、その打ち合わせ室はクローズしていなくてもいいんじゃないかなと思っていました。僕の奥さんは美術家なので、自分の作品をつくることに何かフィードバックが得られるような、たとえばトークイベントであるとか、そういうことができる場所を自分で持ちたいと思っていました。それで 2 人の考えを合わせると、そういうフレキシブルな場所があってもいいんじゃないのという話になって。事業を回すことを考えると都心の目抜き通りでもない限りコーヒー1 杯だけで回すのはちょっと難しいと思っていたので、何か食べ物を出すといいんじゃないかなと考えました。サンドイッチにしたのは単純にサンドイッチがすごい好きだからなんですけどね(笑)。

 

大塚──好きそう(笑)。

 

林口──僕も彼女も飲食業のバックグラウンドがないんです。僕に至っては飲食店でアルバ イトすらしたことがない。けれども、さっきのコーヒーの話もそうなんですが、ちょっとした「美味しい」ということはコミュニケーションのツールになると捉えていて、設計事務所をやっている以上、地域の人たちにここに設計事務所があるんだよっていうことを知ってもらいたいですし。自分が設計した建物、たとえば住宅だとお客さんを案内しようにも住んでる方もいらっしゃってなかなか見せてあげられないんですが、お店を持てばこういう設計してますっていうのを見てもらう機会も兼ねられるんじゃないかなという複合的な理由で、飲食店を始めました。さっき大塚さんもおっしゃっていたように、 戸越を目指してくる、戸越に行きたいと思ってくる人だけで商売が成り立つほど人は来ていない街なんですね。なので、圧倒的に地域の人がまず対象になるので、地域の生活圏のことをイメージすると、まずテイクアウトできることが重要です。あとサンドイッチは組み合わせの妙みたいなところで味の発見があったりするのがおもしろいですよね。メニ ューづくりではフードデザイナーの友人に入ってもらっているんですけれども、僕らもこういう味にしたいとか、こういうことを考えているっていうのは伝えながら一緒に味をつくっていったりできるので、一緒にデザインするというクリエイティビティがあるところもやりがいがあります。

 

飯田──レシピが再現しやすいというメリットもありますね。調理師じゃないとできない難しい調理プロセスがなく開発してもらったレシピを自分たちでつくっても同じ美味しいものができるという。

 

下吹越──パンは自分たちで焼いてるんですか?

 

林口──パンを焼くのはさすがにハードルが高いので、隣町の武蔵小山にある「ネモ」というパン屋さんにつくってもらっています。コーヒーはMR.COFFEE からという形で、全部ではないんですけれども、自分たちで賄えないかつキーになるものはなるべく地域の人たちのつくったものを使いたいと思っているので。特に戸越をどうにかしたいっていう意識はないんですけれども、ショートメールで、「明日コーヒー豆を何グラムお願いします」と 送ると届けに寄ってくれるみたいな距離の近いコミュニケーションが、建築設計という2年も3 年もかかるようなスパンの仕事をしている僕にとっては面白いなと思っています。それからおばあちゃんが入って来て、「メニューが見づらいわね」って言って帰っていくとか、そういう小さなデザインへの反応も含めて、デザインに対する距離感みたいなものの幅が広いですね。そういう反応を楽しみたいという思いもあって、道路に面した窓をつくってサンドイッチはそこからも販売しています。
これは東京の特徴かなと思っているんですが、駅の近くにだけ美味しい食べ物屋があるわけじゃなくて、駅から結構歩いていった住宅街に美味しい食べ物屋さんがポッとあったりしますよね。面的に散策すると、発見的に楽しめる街って楽しいなって個人的に思うんですよ。この戸越も商店街から少し外れると神社があったり、ここから100mくらい行ったところに大きな芝生の公園があったり、ふらふらと歩いている時にお米やさんがあったりと発見がたくさんある街です。この店もそういうポジションになるともうちょっと街が楽しくなるのではないかなと思っていて、目抜き通りをわざと外してます。

 

イベントの様子                                                          photo spread it

葛西──食と絡めるというのは、人が入ってきやすかったり、緩やかな会議室みたいなものをつくる目的があったんですね。

 

林口──そうですね、僕が打ち合わせで使うこともあるし、もちろんカフェとして普段は営業しているので、客席として使われています。先ほど近所の食べ物屋さんが減ったんじゃないかという話がありましたが、遅い時間や逆に朝の時間にニーズがあるなと1年間くらい営業してみて感じます。たとえば会社に行く途中に朝食を買っていくとか。前にお米やさんがおにぎりを出されていた時には、朝にやっていましたよね。

 

大塚──そうですね。朝8時から15時まででした。

 

林口──朝おにぎりを買って駅へ向かう人もいましたよね。なので、地域の人のカフェとしては、ここの先に銀行とかスーパーとかあるので買い物した帰りにおばあちゃん達がコーヒーを飲んでいくとか、保育園帰りのお母さん達がサンドイッチをテイクアウトしていくとか。あとは何も食べたり買ったりしていかないけど、小学生が勝手に入ってきて宿題だけして帰っていくとか(笑)。この前急にザッーっと雨が降った時に、店先で雨宿りしていく子供がいたんです。それから、朝仕込みに来ると、おじいちゃんがそこのベンチで休憩しているとか。そうい う使われ方は想像していなかったけれどもよい風景だなと思っています。街への馴染ませ方としてそういうことを多少は意識してここはつくったというのはあります。おばあちゃんがやっているようなタバコ屋さんのカウンターとか、古ぼけたベンチが置いてあってお年寄りが休憩しているとか、そのような地域にある要素をこのspread itでは少しずつ設計に反映させていますね。

 

 

飯田──パートナーのリリリさんにもお話を伺わせて下さい。spread itがあって、お隣の駅にアトリエがあって、お2人のお住まいも近所だそうで。

 

オオツカリリリ(以下. リリリ)──アトリエはここから自転車で5分くらいの隣町にあります。

 

下吹越──こことアトリエはどんな配分で使っていらっしゃるんですか?

 

リリリ──ここは11時から18時までサンドイッチとコーヒーの店舗として営業して、閉店後に奥で作業することもあればアトリエに行くこともあって、2つの場所で制作をしています。

 

下吹越──戸越に来られて作風って変わりました?

 

リリリ──作風自体は、自分を表現するというタイプの美術家ではなくて、そもそももっと豊かに社会を回遊してくような制作をしたいという思いがあるので、ここで店頭に立つことそのものがプロジェクトの一環という形になっていて、制作の幅も広がっていくと感じていますね。

 

下吹越──ここは制作現場そのものなんですね。でも制作場所を街に開くっていうのはすごい勇気のある行為のように思います。

 

リリリ──公開制作ですね。たしかに制作自体は、人目に触れないでやるほうが落ち着きます。最初の時点では視線がすごく気になった部分はあるんですけど、3ヶ月経って全然気にならないようになり、集中できる場所でありながらそれでも開かれているので、自分でも思いがけないような出来事があったりすると、そのことが制作の糧にもできるというバランスがとれています。

 

下吹越──お二人のお話を伺っていて感じるのですが、デザインという活動は場所を超えた広がりをもっているけれど、あえて場所に定着して活動することがデザインの可能性を広げることもあるのではないかというスタンスなんだと思いました。で、たとえば、八百屋さんのおっちゃんが商店街の中にしか活動の場所がないと今の時代は結構つらいと思うけれど農家の方と繋がっていって、野菜のつくり方から議論しながらやっていくと、すごい楽しいと思うんです。つまり、異なる2つの領域をもっているととても楽しいんじゃないかなって思ったんですが、そういう感覚ってありますか?

 

リリリ──ありますね。たとえばアーティストインレジデンスである一定期間制作するっていうプログラムに参加するときには、ここに拠点があることが他の場所で制作するうえでの糧になるんだろうなと思います。

 

spread itの改装前の様子                                                                                                                                                   photo Y.DEGUCHI

林口──地域とのコミュニケーションで言うと、おばあちゃんにスーパーの帰りにおまんじゅうを分けてもらったり、そういうこともありますね。

 

大塚──ありますね。

 

林口──どうしてもカフェ営業の時間帯のみのオープンなので、朝早く出て、夜遅く帰ってくる方は、土日しか来られないんですよ。なので、シャッターがあいているだけでも街に何かしらの影響を及ぼしている気がして、spread itのシャッターは降ろさないで少し照明をつけたまま夜帰るようにしています。そうすると、夜メニューを覗き込んだりする人がいて、商店街としても1階ファザードが見えているほうがいいなと思いますね。

 

下吹越──なるほど、シャッターがあるからいけないんですね。

 

大塚──たしかにそうですね。本当に閉店ガラガラガラーって街に対して閉じてしまう感じで。

 

下吹越──集合住宅の玄関の鉄扉を閉めることで完全にプライバシーを確保することが、戦後の日本のコミュニティをダメにした、ということを山本理顕さんが言ってます。シャッターも鉄扉と同じですね。閉めれば、今日はもうおしまいって言ってるのが、日本の商店街をダメにした一因かもしれません。

 

戸越銀座を拠点にした理由

 

飯田──そもそも6年前はなぜ戸越銀座に越されたんですか?

 

林口──以前勤めていた設計事務所が初台にあったので近場の代々木に住んでいましたが、その時には街を楽しむという感じはありませんでした。独立する時は、定住というか長く住むことになった時の選択肢として職住が割と近い街がいいなと漠然と思っていました。僕は神奈川県の鎌倉育ちなんですけど、いわゆる開発された住宅地育ちなので10分くらい歩いて駅まで行って初めてコンビニやちょっとした商店街があります。住まいとお店が渾然一体となった状況自体が今までの経験になかったので、そういうところに住んでみたいというのがありました。

 

下吹越──戸越以外に引越し先の候補地ってあったんですか?

 

林口──隣町の武蔵小山あたりとか、あとはあの頃は目黒の駅からちょっと外れたところにも興味がありました。ブレイクしきっていない場所がいいなって思っていて(笑)。

 

下吹越──それはよくわかる。ブレイクしてると面白くないよね(笑)。

 

大塚──戸越というかこの宮前商店街辺りって、ブレイクしきってない感じがいいですよね。

 

飯田──では、ブレイクしきってない場所の中で戸越になった決め手はなんですか?

 

林口──たまたまいいなと思って選んだ家が戸越だったことから始まっているんですが、戸越は駅近であっても駅近の優位性がそこまで強くない場所だなと思っていました。spread itは、もともと構想段階ではもっと広い場所を探していたんですが、この街の規模からして希望の大きさの物件がなかなかなくて、それで一旦外につながるカフェの部分を主体としてつくることにしました。その結果、設計事務所としてはすごく小さいですし、本来はもう少し他の職種の人と一緒に働ける場所をつくりたい、そこにこういうイベントスペースが付帯しているというのが理想だったので、徒歩圏内くらいの中にシェアオフィススペースをつくりたいと思って今も場所は探し続けているんです。

 

飯田──ひとつの広い場所でなくてもいいですね。街の中に分棟形式で散らばっているのも面白いですね。

 

林口──小さいことがメリットになるというのはこういう商店街がある地域だからこそだと思います。お客さんの中に器のセレクトショップをネット上でやっていて、実は実店舗を持ちたい、けれども実店舗を持つという現実的なハードルが高いという話をちょこちょこ聞くんです。なのでお米やさんのような小さな規模でも、いろいろな業態の方をセレクトして一緒に展示されている方法、場所の面白みとしても、事業としても可能性はあるなと思います。加えてフィードバックがあるっていうのはすごい楽しそうだなと思っていて、普通のデザインの仕事でも、設計の仕事でも確かにクライアントからのフィード バックはあるけれど、なんとなくリアルタイムじゃないというか1回大人の事情というフィルターが入って届いているというか、あまり生々しい声じゃないなって感じがしますね。だから何気ないフィードバックが常にある環境というのはたしかにいいですよね。その場でこれ違うって言われるみたいな反応があったり、一方で、それをいいと言ってくれるお客さんもいたりして。じゃあ、誰に向けて自分はデザインしてるんだろうっていうのを常にやんわりと意識します。

 

宮前商店街の未来像

 

林口──先ほど、都心との賃料の差という話がありましたが、戸越銀座商店街と宮前商店街だと、ざっくり言うと賃料が 2 倍違うんですよ。

 

飯田──ちなみにここの賃料は大体いくらくらいなんですか?

 

林口──ここは大体坪 1 万円くらいです。戸越銀座商店街に出ると大体坪2~2.5万円くらいです、坪2~2.5万だと恵比寿から徒歩3分圏と変わらないんですよ。そうすると個人で事業する人達にとっては代替わりやお店が変わる時にハードルがどんどん上がっ ていってしまうんです。チェーン店は全国の店舗で利益を上げているので局所的に利益が出ていなくてもいい。そういう業態ばかりになってしまうと商店街の景色は、ファーストフードや保険の代理店、接骨院といった特定の職種で埋まっていってしまうんですね。

 

下吹越──僕は久々に来ましたけど、昔はもっと買い食いができる食べ物屋さんが多かったですよね。たとえばお肉屋さんが焼き鳥やコロッケを売っていたり、生活に密着した店がもっと点在していたように思います。

 

大塚──ここ5年くらいで結構変わりましたよね。

 

葛西──もともとこの辺りにはクリエイターの方たちが多いんですか?

 

大塚──多いかと言われると、まだまだ僕らもわからないくらいなんですけど、ただ思っていた以上にはいますね。

 

林口──spread itの運営を始めて、お客さんの中でデザインやっているようなお客さんは話しかけてくれたりする。こういう都心の住宅街は一定の割合でクリエイティブ職の人がいて、MR.COFFEEとかspread it みたいな場所があると自然発生的にその人たちと出会うチャンスが増えてるんじゃないかなと思います。特別こっちから集まってくださいって言っている訳ではないんですけど、すごいおしゃれな自転車に乗ってコーヒーを買っていく人がいるなと思っていたら、何度目かに声をかけてくれて、デザイン業なんですと言っていて、ここでデザイン関係のトークイベントをしてますよと言うと来てくれたりします。OWANさんもそういうつながりで仕事されてたりしますよね。

 

大塚──そうですね。やっぱりデザイン業やってるんでさまざまなデザイナーとの関わりは常に探してたりするんですよね。店にはそういう偶然というか、こんな近くに居たんだ、という出会いがあります。そこが想像以上にこういう街の中でやれた面白さという気はしてますね。

 

林口──結果的に、程よくフィルターがかかっているというか、興味があって僕が大塚さんに声かけたみたいな、そういうような現象が、こういう場所があることで発生しているっていう印象があります。

 

飯田──多分そういう人たちもそこがチェーン店だったら話しかけないですよね。こういうお店だからちょっと話しかけてみて、話してみるとお互い何か物をつくっているっていうことがわかる。

 

大塚──spread itとかハスキージェラート(宮前商店街にあるジェラート屋さん)がまだ無い頃って、もっと寂しい感じだったんですね。そこでまちづくりという視点から考えると、よくあるようにコンセプトを掲げて、プロジェクトを立ち上げて、みんなで活性化させていこうっていうようなことをやらないとまずいんじゃないかという思いが最初はありました。けれど、現在は変にコンセプトを掲げてこなかったからできている部分があるんじゃないかなというのを感じていますね。

 

林口──本当に無理してないですよね(笑)。

 

大塚──地域の年配の大家さんってどんどん思考停止状態になっていくんですよ。だって自分たちは何もしなくても家賃収入で食べていけるし早くテナントに入れ替わってもらった方が、よりお金が入ってくるんですよね。別にその人たちにもっといろいろ考えて街を大事にしていったほうがいいとかって言う気はないんですけれど、やっぱり商店街は進化、変化を程よく加えていかないといけないと思っているんです。お店を呼び込む努力とか、お客に歩み寄る気持ちとか、そう言ったものが欠けていってしまうと、もうあとはチェーン店や大手しか街 に入ってこられなくなってしまう。そうすると街の雰囲気がどこにでもあるような風景になってしまうと思うんですね。

 

林口──均質化していきますね。

 

大塚──でもそれはもう仕方ない。それも1つの流れなので、それはそれで僕らも勉強しなければならない。じゃあ今後この宮前というところはどういう風にしていくといいのかなっていうところで、実は道路拡張の計画があるんですよ。具体的にはお米やさんがあるもうちょっと向こうの方から、道路の反対側の建物は、20m道路拡張の計画でセットバックすることになっています。だからガラッと変わっていく訳なんですよね。

 

商店街から見たspread it                                                    photo Y.DEGUCHI

下吹越──それはもう実際に動きそうなんですか?

 

大塚──もう動いてます。

 

林口──取り壊しでちょこちょこ歯抜けになっているところが出始めています。うちの目の前の道はこのまま残りますが、取り壊しは始まったばかりなので2年や3年というスパンではなくもっと長期的な話です。

 

飯田──道路拡幅はすごく期間が長いから、整備されるまでの間がしんどいですね。

 

大塚──コンサルの人呼んで来て綺麗に整えてもらうのではなくて、自分たちが商売しなが らいろんな研究をして、何かいい提案をこの世代がやっていけるといいなと思っているんですよ。

 

飯田──何か意見を言えそうな機会はあるんですか?

 

大塚──まだそのタイミングまで来ていないんですが、区役所の人や議員さんがちょいちょいやって来てくれているので、今後プロジェクトを立ち上げて具体的に働きかけたいと考えています。

 

ワークプレイス

 

下吹越──デザインって場所から解放されて自由に国境や民族性を飛び越えて会話ができるフラットなツールだと思います。一方で場所に根ざしてデザインを考えたりとか、サンドイッチ屋さんのように、地域の方とのコミュニケーションをとりながらつくっていくとか、それはグローバルなデザインの対極的な視点なんだけれども、でもすごく今みんなが欲している部分のような気もします。
たとえばお二人の今日のお話で、戸越という地域の中で拠点をつくっていくということの面白さが非常に伝わってきたんですけれど、いつからそういう場所に根差した活動拠点が欲しいと思うようになったんですか?

 

大塚──青山とか外苑前でオフィスを構えるのは誰でもやっているので、違うことをしたいという思いはありました。日本ではデザインというとどうしても目に見えるところを綺麗にしていくような仕事に捕らえられがちですけれど、本当のデザインって、もう少し身近にある課題に対して何ができるのかっていうことに真剣に向き合わないと、まずいんじゃないかという疑問が出てきたんですよね。綺麗にしていく仕事の方がお金になりやすかったりするんですが、そういうことはずっと続かない気がしています。そういう意味では、この戸越という場所で、やり方もなにもわからないけど、なにかやれるんじゃないか。ここに本気になって向き合う必要があるんじゃないかという直感がありました。

 

下吹越──なるほど。林口さんはどうですか?

 

林口──僕はいわゆる意匠系の研究室で学部、大学院と設計を学んで、そのままアトリエと言われるような設計事務所に勤めていたので、建築設計業界では比較的王道っぽい経歴だと思います。働き方もハードだったし、3、4年くらい経ってくるとプロジェクトはある程度任せてもらえるような立場になってきて、そうすると少し自分の時間にも余裕が出て来ます。
そうすると、あらためて建築に対する自分の評価軸みたいなものが生まれてきていて、この頃夜な夜な同級生で集まって話したりしていると、自然と自分たちの世代の設計職ってどうなっていくんだろうということを議論するようになりました。自分たちの師匠となる世代の建築家とは時代が違ってきているっていう背景と、それぞれ個人が持っている興味が変わってきていることをすごく感じていました。もともと僕は建築学科に入る前は広く浅くデザインに興味があったので、建築学科以外にもいわゆる美大のデザイン科みたいなところにも行きたいなと思っていたんですが、そういう広義にデザインすることへの興味が強くありました。それで設計の面白さが深まっていく一方、建築を超えて広くデザインすることをゆくゆくやりたいなという思いが大きくなっていきました。

 

大塚──ネット社会になっていく中で、リアルな居場所というものの貴重性がますます感じられ始めていくんじゃないかという印象が10年前くらいからあったんですよ。なので、居場所と自分の仕事かつ自分のやりたいことをやりやすい素地が商店街にあるわけで、やりたいことは商店街でやりませんか?みたいな活動をもうちょっとやっていけたらいいなという思いがあります。

 

下吹越──場所にこだわるというのはそれが目的ではなくて生活環境の1つであって、日常と仕事を連続させる、そこを分けないで一緒に考えることと、街のことを考えるということは同じなんだということを2人の話を聞いていてよくわかりました。そういうことができる社会になってきたのかもしれないし、環境が整ってきたということかもしれないですね。

 

[2018.09.10,spread itにて]

インタビュアー:下吹越武人・飯田彩・葛西孝憲・熊谷浩紀・近藤有希子

文責:大江和希・熊谷浩紀

 

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