小さな多拠点・多角経営

 

大塚宗雄(オオツカアツオ)
株式会社OWAN代表
東京都品川区戸越の宮前商店街でPEDRA BRANCA
MR.COFFEE
お米やを運営
林口洋平(ハヤシグチヨウヘイ)
spread architects代表
宮前商店街で建築設計事務所、サンドイッチカフェ、イベントスペースを複合したspread itをパートナーのオオツカリリリと共同運営
オオツカリリリ
spread it 代表
美術家
林口洋平とspread itを共同経営しながら自身の作品を制作

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都品川区戸越にある宮前商店街は、ここ数年で緩やかな盛り上がりを見せている。この商店街を拠点として活動する、建築家の林口洋平さん、デザイナーの 大塚崇雄さん、美術家のオオツカリリリさんのお 3 方に、実際にプロジェクトを巡りながらお話を伺った。

 

 

葛西孝憲(以下.葛西):お2人の活動経緯やお店について教えてください。

 

林口洋平さん(以下. 林口)──spread it(スプレッド・イット)は、サンドイッチカフェと小さなイベントスペース兼客席、僕の設計事務所(spread architects)の3つの機能が1つに合わさっている場所として運営しています。場所としては小さいですけれども、客席を打ち合わせや作業スペース、イベントスペースとして使うことで、空間を有効的に活用しています。主にこの場所の運営は、美術家で僕のパートナーのオオツカリリリが中心で、僕は普段、住宅の設計や内装の設計を個人設計事務所としてやりながら、同時にここの運営に携わっています。
そもそも「働く場所」というものに興味があって、設計事務所もそうですが、どこかのビルやマンションの1室を使っていたりと、一般的な働く場所は、中学校の職員室のような殺風景な環境が多いことが気になっていて、独立したら主にオフィスの内装というジャンルをやりたいなと思っていました。今は、知人の設計事務所とオフィス内装に特化した共同事業を行っていて日本橋の方で事務所をシェアしています。ここの spread architects で主に受けているのは、住宅や店舗が多く、僕個人が窓口になっている仕事をメインにしています。

 

大塚崇雄さん(以下. 大塚)──株式会社 OWANという会社の代表やっています。
僕の祖父母が住んでいた戸越の古い一軒家が空き家になっていますので父親から何かに使えないかと言われたのをきっかけに 10 年前にここで起業しました。
「クリエイティブビジネスデザイン」という自分で考えた言葉なんですけど、クリエイティブな思考とはすごく前向きで、現状をよりよくすることです。そういう視点でまわりを見ると街にしても生活にしても身近に課題って色々あるなと思っていて、OWAN という会社は街や生活の中で身近な課題を解決していくということをコンセプトに始めました。普段は企業からの依頼でウェブ制作、IT コンサルタントをメインに事業をやっています。

 

戸越エリアで 3 つの店舗を運営

 

大塚──戸越では「PEDRA BRANCA」「MR.COFFEE」「お米や」という 3 つのお店をやっています。まず、起業して 1、2 年目の頃、PEDRA BRANCA というカフェを 2011 年に立ち上げました。古民家を改装した店舗で、林口さんにもカフェから喫茶店に切り替えた時に、内装のことをお願いしました。このカフェができた当初の戸越はかなりさびれていました。現役でやっているお店はあるんですが、新しいことにチャレンジする若い世代の人たちは誰もいなかったですね。PEDRA BRANCA がある通りもこのお店以外はコインランドリーがあるぐらいでした。PEDRA BRANCA が立ち上がって僕が感じたのは、カフェ事業の凄さですね。現在は夜の営業をやっていないので喫茶店という形で11 時から 18時まで営業しているんですが、当初は 11 時から 24 時ぐらいまでやっていました。次第にクリエイターたちが集まるようになってきて、この若い人たちはいつもはどこにいるんだろうと思うほど、夜になると若者たちが集まっていました。PEDRA BRANCA というカフェがあったことが今の活動につながっていますし、このカフェが最初にあったからこそ人 との繋がりもできたと改めて感じています。外からにわざわざ戸越に来る人はそんなにいないので基本的には地元の方が対象になりますが、地元の方には開店して 2、3 年しないと店があることが認知されないんですよ。最初の 1 年くらいは昼間に近所のご老人たちだけが集まって夜はガラガラだったんですが、展示、ギャラリーなどの企画を地道にやっていく中で客層が変わっていったのかなと思っています。

 

葛西──なるほど。そして、次に開かれたのが MR.COFFEE(ミスター・コーヒー)ですね。

 

大塚──そうです。MR.COFFEE という自家焙煎の事業を始めました。昔は壱番館という店で地元のおじいさんがやっていたんですが、5年前ぐらいに「辞めるけどやる?」と誘われて始まりました。PEDRA BRANCA を立ち上げた時にコーヒーを扱うなら自家焙煎のものを使いたいなと思って色々と探していましたし、たまたまその時に PEDRA BRANCA にコーヒーのお店をやりたいというスタッフがいたので、彼に事業は任せるからやってくれとお願いしました。僕らはデザイン業を主体にやっているので、自分たちのお店のブランドをつくることに興味があって、生豆を仕入れて焙煎すると面白いと思って始めました。

 

林口──僕は 2012 年に戸越へ引っ越ししてきて、引越しした初日に PEDRA BRANCAでご飯を食べ、翌日に少し周りを散策しようと思って歩いていたら、コーヒーの看板が出ているMR.COFFEEに気付き、店内にiMac が何台もある変な店だなと思って声をかけたのがきっかけで大塚さんと知り合いました。spread itのコーヒーはMR.COFFEEが焙煎したものを使っています。

 

MR.COFFEEでインタビューに答える大塚さん(右)

八百屋を「お米や」へリノベーション

 

大塚──もともと僕のおじいさんとおばあさんが戸越に住んでいたので、地域に顔見知りの年配の方もいらして、八百屋さんの方が仕事をやめるんだけどなにかできないかな、という話をいただきましてそこから3 店目の「お米や」のプロジェクトが始まりました。なぜ「お米や」になったかというと、僕の母方の実家が新潟で米をやっていたという背景があります。商店街でコーヒーも結構デイリーで使ってもらっているんですが、コーヒー以上にもっと気軽にコミュニケーションを取れる商品はないかなって考えた時に、おむすびだと思いました。おむすびってなんか形状もいいじゃないですか。それにおむすびが嫌いって人は聞いたことないなと思いまして。ただ、今はおむすびの事業はやっていません。店長さんが結婚して東京離れることになり、そのあとを引き継ぐ、おむすびのプロが探してもなかなか見つからないんです。

 

葛西──たしかに、おむすびのプロってなかなか聞かないですね(笑)。

 

大塚──いたら教えてもらいたい。明日にでも会いに行きます(笑)。それで、今後は下手なものを出すよりは、地方の物産展を不定期にでもやっていって、この場を活用していきたいと考えました。この 1、2 年は物産展を単発でやっていて、今は、新潟の繋がりで酒粕のアイテムをいろいろと商品開発している会社に入ってもらって、酒粕シェイクや酒粕のカレーなどを販売しています。

 

(お米やへ移動)

 

大塚──リノベーションの設計は、スキーマ建築計画の長坂常さんにお願いしました。基本的にはもともとそこにあるものを生かして、限られた予算の中でやれることを街の文脈なども含めて汲み取ってつくっていただいたので、既存の柱や欄間を磨いて、最小限の素材と内容で場所をつくったという感じですね。

 

下吹越武人(以下.下吹越)──2年ぐらい前にたまたまここを通って、「なんだこれ?」と思って建物を写真に撮って、おにぎり買ったんですよ。その時はもっとピッカピカで、たしかに新築のような輝きでした。神殿みたいなものが突然商店街に現れたように見えて、木って磨くといつでも神殿のようになるんだって驚きました。

 

大塚──手を入れる前は真っ黒い木だったんですよ。

 

林口──いい感じになじんできていよいよ新旧の木材の差がわからなくなってきてますよね。このお店、外壁がないですね。

 

大塚──ないです。

 

林口──シャッターを開けたらいきなりお店の空間になっていますが、これは大塚さんからそういうオープンな建物をオーダーしたんですか?

 

大塚──長坂さんの勧めですね。この宮前商店街をふわっといい感じにする店にしたいと思っていたので、シンボルというとちょっと大げさかもしれないですが、周囲に対して開いた感じがいいと思いまして。さっき下吹越さんがおっしゃっていたように歩いてきて「おぉ!」みたいな、そういう感じの開けた雰囲気というか、街のシーンに溶け込んでいると言いますか、すごくそのあたりは考えていただきました。

 

お米やにて

 

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