「いい感じ」の仕事のスケールをつくる

 

 

 

空薫(ソラダキ)×tech to hook

 

丸石隆行さん:建築設計事務所「tech to hook」代表

鶴飼明子さん:手作り和菓子屋「空薫(ソラダキ)」を営む

 

 

 

 

 

 

 

東京都台東区谷中銀座にある「空薫(ソラダキ)×tech to hook」は、和菓子屋と建築設計事務所が組み合わさった珍しいお店だ。谷中銀座の通りから1本路地に入った場所にひっそりと佇む古民家を改修したお店には、現在2人の入居者がいる。観光客の多い谷中銀座の中で、なぜひっそりとお店を開いているのだろうか?なぜ和菓子屋と組んで設計事務所を開いているのだろうか?お店を開いている丸石隆行さんと鶴飼明子さんにお話を伺った。

 

 

川田優太郎(以下:川田) ──まず、「空薫(ソラダキ)×tech to hook」に至るまでの活動経緯について教えて下さい。

 

丸石隆行(以下:丸石) ──もともとはリフォーム会社で6年、デベロッパーで4年働いていて、そのあと独立して設計事務所を立ち上げました。有名なアトリエ設計事務所や組織設計事務所を出ているわけではないので、いきなり独立しても仕事は来ないだろうと考えました。そこで事務所を立ち上げようとした時期に学生時代の友人の鶴飼が和菓子屋を開こうとしていたので、意気投合して和菓子屋と事務所を合体して「空薫(ソラダキ)×tech to hook」を開くことになりました。

 

畠山かおり(以下:畠山) ──それぞれ住まいはどちらですか?

 

丸石 ──僕は近所で、鶴飼は千葉から谷中まで通っていますね。

 

川田 ──鶴飼さんは随分と遠いですね。谷中で活動されていますが、なぜ谷中を選んだのですか?

 

丸石 ──僕の自宅が近いのも理由のひとつですが、もともとは谷中と根津は人がたくさん来るのでお店を開くのに適した場所だと考えていました。僕的に谷中より少し大人のイメージを持った根津の方が面白いと考え、根津の辺りを探したのですが好みの場所が空いていなかったので、谷中まで範囲を広げて探していたら現在の家を見つけたんです。もともとこの家には1人でおばあちゃんが住んでいらっしゃったのですが、そのおばあちゃんが施設に入られるということで、息子さんが貸してくださいました。息子さんからこの家を借りるのにあたって「改装するなり好きにしてください」と言われたので、この場所でお店を始めることにしました。

 

川田 ──和菓子屋さんに来店されるお客さんは観光客の方が多いのですか?

 

 

(和菓子の仕込み中の鶴飼さんに厨房から応えていただいている。)

 

 

鶴飼明子(以下:鶴飼) ──常連さんと新規の方が半々ですかね。平日は常連さんが多く、休日は観光客の方が多いです。谷中銀座は観光客の数が多いので、例えば雨が降ってお客さんが外を歩かなくなってしまうと近所の人の比率が8割くらいになります。

 

丸石 ──休日は本当に人が多いですね。ただお店が1本路地に入っていて外に幟を立てているだけなので、普通の人は見つけられません。

 

川田 ──僕もはじめて伺った時は見つけられずに近所の方に道を案内していただきました。

 

丸石 ──そうでしたか。鶴飼も大々的にお店を知って貰う為に売っているのではありません。そもそも鶴飼の和菓子屋は全て自分自身で作っているので、数が限られてしまいます。要するにちゃんと自分の味を理解していただける方に食べていただきたいという思いがあるようです。なので開店した当初から宣伝もしていないですし、少し気になる方が来て頂けるだけでいいんです。言い方が的確ではないかもしれませんが路地が気になる好奇心旺盛な方々がいらっしゃいまして、そうした方々がうちの和菓子を召し上がって頂いた結果、4年間で常連さんが常連さんを招いていくという形になっていったのかなと思います。積極的に売りに出していたら、もっとたくさんの方々がいらっしゃったと思いますが。ひっそりと佇むことが好きなのかもしれません。今までテレビや雑誌の取材依頼は全部お断りしています。知る人ぞ知るという口コミでいらっしゃっているお客さんを大切にしています。あえて見つけにくい場所を選ぶことにより、大勢のお客さんが来るよりも、口コミでいいコミュニティが築けている気がします。お客さんもこんな奥にあるところに来てくださる方々なので、好奇心旺盛な方が多いのかもしれませんね。

 

川田 ──営業している日にちも少ないみたいですね。何度か和菓子を買いに訪ねたのですが、お休みでした。

 

丸石 ──和菓子屋は金土日曜日の週に3日のみですね。それ以外の日は営業していません。

 

川田 ──設計事務所も同じくお休みなのですか?

 

丸石 ──土日に休んでいることが多いですね。僕は平日働きなので、どちらかはお店にはいます。鶴飼は月曜日が休みで、火水木で和菓子の仕込みを行っています。

 

川田 ──もともと鶴飼さんも建築学科出身とお聞きしていますが、仕事を依頼されて2人で設計することもありますか?

 

丸石 ──いいえ、2人で設計はしていません。ただ不在の時に電話に対応するなど互いが店番をするかたちで協力しています。実は昔、僕は設計事務所以外にこの家の3階で飲み屋をしていたんです。しかし、1階の厨房から3階まで料理を運ぶのが大変で、採算も合わなくて1年半でたたんでしまいました。

 

2階の様子

 

3階の様子

 

川田 ──現在その3階はどのように活用されていますか?

 

丸石 ──現在は2、3階を展示場や教室として人に貸したり、飲み会の場としたりしていますね。

 

川田 ──貸し出しの宣伝などは行っていないのですか?

 

丸石 ──していませんね。知り合いに貸すことが基本ですね。

 

畠山 ──知り合いの方が知り合いの方に紹介するという、いわゆる口コミで広がっている状況ですか?

 

丸石 ──まだ4年なので第三者に貸し出したことはないですね。

 

畠山 ──将来的に口コミで広がっていったらいいなという考えはありますか?

 

丸石 ──今のところは考えていませんね。たぶんそのような広がりをちゃんと考える人だったら、ホームページやツイッターをマメにやるのでしょうけど、僕はホームページなんか何年も更新しないような人なので(笑)。

 

川田 ──設計依頼のお客さんとはこの事務所でお話しされるのでしょうか?

 

丸石 ──この事務所にいらっしゃればここでお話ししますし、あとはお客さんの家に訪ねることもあります。

 

川田 ──それにしてもこの事務所はお話のしやすい空間ですね。ラフな感じといいますか、緊張せず落ち着きます。先ほども僕たちのお茶を用意してくださった際、冷凍庫から氷を取り出す行動が見え、実際にここには住んでいらっしゃらないですが生活感が見えていてそれが心地よく感じるのかもしれません。おそらくこのような雰囲気が地域に開いているというか、谷中商店街の中になんの違和感もなく設計事務所が溶け込んでいるように感じるのでしょうね。

 

2階の窓から路地裏を見る

 

2階の様子

 

丸石 ──正直、僕はこの場所を地域に開いている自覚はありませんね。あまり自ら行動するタイプではありませんので(笑)。このお店の空室を貸して展示会や教室を開いていますが、自分達の知人を引っ張ってやっているわけなので、地域の人とあまり関わっていないというか、自分達の知人で完結しています。

 

川田 ──とても孤立しているようには見えないのですが。

 

丸石 ──表の和菓子屋が商店街と繋がっていますからね。僕は設計担当で接客するというわけではないのでそのような意味では谷中銀座から孤立しているのかもしれません。

 

川田 ──先ほどのお客さんとの対話を見ていて、一般の設計事務所とは違って抽象的ではありますが僕たちには見えない特別な地域との繋がりを感じます。

 

丸石 ──見えない繋がりですか…。でも人と常に繋がっていたら疲れちゃいます(笑)。

 

(一同笑い)

 

丸石 ──なのでひっそりと佇んでいたいというのはそういうことがあるのかもしれませんね。

 

畠山 ──一般の設計事務所はもっとかしこまった雰囲気で中に入りづらいと感じますが、tech to hookさんは和菓子屋と設計事務所が組み合わさっているので、入りやすいなと感じました。空薫さんがクッションの役割を果たしているように思います。空薫さんを利用されたお客さんから設計の依頼や相談などはありましたか?

 

丸石:確かに何か他の業態を組み合わせることで敷居が低くなるといいますか、お客さんは事務所に入りやすいのかもしれませんね。僕は単独設計事務所というのは考えられなかったので和菓子屋と組んで活動をしていますが、4年間やってきて和菓子屋のお客さんから相談はあっても設計を依頼された事はありません。しかし、和菓子屋と組んでいるとお客様の所への手土産に困りません。また、和菓子屋のお客様で、建築に全く関係ない方々との出会いがあり、それが自分にとって肥やしになるという点も面白みのひとつです。小さな設計事務所はそろそろ意匠設計だけでは食べていけない時代になってきたと考えています。異なった業種と組み合わせることで、どんな化学反応が起こるのかを見られるのも、面白みのひとつだと感じています。「設計しながら畑やっています。」や「民泊やっています。」といったハイブリッド型でないと面白くないですからね。今は和菓子屋と一緒に活動していますが、和菓子屋やカフェはみんなやり始めていて面白みが無くなって来たので他に何か新しいものを見つけなければならないと考えているのですが…。難しいです。

 

畠山:仮に農業をやるとしたら設計事務所をやめて農業に専念する可能性はありますか?

 

丸石:それもいいかもしれませんね。農業やりたいですね(笑)。もともと学生時代のアルバイトで造園業をやっていて、職人さんたちと日中自分の体を使って働く、何かを作る仕事は自分の性に合っていて結構楽しかったです。設計者が何も作っていないというわけではないけれど、職人になってみたかったなと思う時もありますね。彼女が建築から和菓子屋へとシフトチェンジしたのは、和菓子屋のご主人から誘われたのがきっかけかもしれないけど、職人気質もあるのかもしれませんね。自分でもまだわかっていないけど、和菓子屋さんという職人気質の業態と組んで充実した活動ができているような気がします。

 

川田 ──最後になりますが、今後何か新しい活動や「ワークプレイス」への考えがあったらお聞かせください。

 

丸石 ──二地域居住ってご存知ですか?

 

川田&畠山 ──すみません、知りません。

 

丸石 ──例えば僕は現在東京のみに暮らしていますが、東京以外の地に新しい拠点を持ち2つの地域に暮らすことを言います。現在の地では行えない活動を新しい拠点地で行ってみるという魅力のある生活の仕方だと考えています。現代では二地域居住はそれなりに認知されてきていますが、実際にされている方の数も少ないです。しかしこれから少子高齢化で家も余ってくるので、もう少し二地域居住のしやすい環境になり、その数も増えるのではないかと考えています。今後二地域居住に関係するような仕事や何か新しいものが生み出されると面白いと考えています。ですが僕は自身の知識が遅れていると感じ始めていて、それを具体的にどうやって今後の活動に落とし込むのかまだわかっていないので、自分で資金を貯め、別荘を作ってさっさと実験してみないとダメですね(笑)。

 

川田 ──実験ですか。確かにそれぞれの地で行われている活動をハイブリッドした新しい仕事として生み出すことが出来たら面白いですし、模索すること自体もやりがいがありますね。それと、二地域居住について、具体的にどこでどのようなことをされてみたいですか?

 

丸石さんが育てている植物

丸石 ──現在店舗併用の事務所をやっていますが、これも自分で実験をしているみたいなものです。自分が仕事をしながら飲み屋をやってみたけれどちょっと大変だなとか、和菓子屋と組んで何か感覚的にうまく行ったけれど、どれだけ設計に反映されるのだろうかとか、実際自分で経験してみないとわからないことばかりです。あとは細かいことだけど、今店内で育てている植木は室内でうまく育つのかとか、そういったこのお店で行なっていること全てが実験だし、経験として蓄積されます。自分好みというより、できることを試してみてそれがうまくできそうだったら次へのスタートになりますから。東京という拠点をベースとして、もう一つどこか地方で活動をしてみたいですね。海に近い静岡あたりで、釣りをやり、畑をやり、お店もやり、お店は友人やその地域の方々に任せて、自身は設計活動をするという感じでやってみたいです。どんなお店をやるかは行く場所が決まらないとわからないですが、その時にその場所に合ったお店を考えます。お店と言っても、「物々交換所」みたいなものでもいいかなとも思っています。友達とやるなら、お金を出し合ってみんなでワイワイやるのもいいですしね。まずは実際になにかやってみないとダメですね。

 

川田 ──お話をお聞きして、ワークプレイスとは柔軟性に優れた実験的な空間のように感じられました。活動の流れに縛られず、常に探求することのできる自由さと場の可変性があるのだと考えられます。また少人数ということも重要な要素ですね。大勢でそれぞれ自由なことを行うと歯止めが効かなくなりますし、少人数だからこそ互いに意思疎通が可能になります。ワークプレイスは場所性だけでなく、そこに関わる人数もキーワードになってくるのかもしれません。「空薫(ソラダキ)×tech to hook」は、古民家空間も素敵ですが、谷中銀座から1本路地を入った場所に位置することも魅力のひとつだと思います。地域に対し主張しすぎず、何気なく繋がっている。気づかぬうちに地域と繋がりが生まれる路地性によって、「和菓子屋と建築設計事務所」が組み合わさった不思議な空間を谷中銀座に溶け込ませているのかもしれませんね。

今日は大変興味深いお話をありがとうございました。

 

[2018.07.27,tech to hookにて]

インタビュアー:川田優太郎・畠山かおり

文責:川田優太郎

 

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