働き方の多様性生む、狩猟採集型社会へ回帰

馬場正尊さんをゲストに迎え、インタビューの内容を振り返りながら、これからのワークプレイスとは何かを考えます。

 

下吹越──現代アートの動向についてぜひ話を聞きたいと思い、東京都現代美術館の学芸員をされている藪前さんにお願いしました。アーティストが美術館を出て、地域で作品をつくるアートプロジェクトが増えていて、各地で盛んに芸術祭などが開催されています。そうした状況において、アーティストや学芸員も場所についての意識が少しずつ変わってきているのではないかと思ったのが、話を聞きたいと思った理由です。研究室でワークプレイスの議論を始めた時に、キーワードのひとつとしてあったのが「狩猟採集型生活」です。最近になって、定住社会以前の人間の感覚で動いている人が増えているのではないかという仮設を立てました。狩猟採集型生活とは、よい場所を見つけて、そこが汚染されたら移動するという暮らし方です。西村佳哲さんの本『いま、地方で生きるということ』(ミシマ社/2011年)のなかで、東日本大震災の後に能動的に活動している人を見て、狩猟採集型社会に戻ってきているという一般の人のコメントが取り上げられていて、それを目にしたのがきっかけでした。このキーワードに対して藪前さん、アーティストの観点から見ても空間がフレッシュであることが重要で、そのような場所にやって来るとおっしゃっていました。そして、場所は汚染と浄化が繰り返されていて、新鮮でフレッシュな空間になるとそこにアーティストが介入していくという結論にたどり着きました。戸越銀座のOWANや、葉山のかざはやファクトリー、403architecture dajibaなどの建築家の動きもそのように捉えると共通しています。

 

馬場──おもしろい指摘ですね。しかも攻撃性を伴わない狩猟採集型社会ですよね。昔の狩猟採集型社会は、なぜか敵を駆逐しなければいけなかったけれど、現代では駆逐しなくてよい社会なのがまたおもしろいですよね。

 

下吹越──自然人類学者の西田正規さんによると、狩猟採集型生活は諍いがなく、攻撃性もないそうです。財産や所有の概念がないので、たとえば、採った獲物を他の人に横取りされても、「あぁ、残念」という感覚にしかなりません。横取りする方も、その獲物が誰かの手元にあっても、地面に落ちていても、同じ獲物として見ているのです。所有の概念は定住生活によってできるわけですね。

 

馬場──現代の戦争も土地に縛られることで起こったわけですからね。

 

飯田──国境がなければ、侵略や防衛という概念も生まれないということですね。

 

下吹越──もうひとつ重要なのは、狩猟採集型生活者は、物が不足すれば移動すればよいので、狩猟採集型生活者の目線で見ると物が豊かな生活を送っていたということです。

 

馬場──つまり現代の豊かな社会は再び狩猟採集型に戻ろうとしているということですね。若い世代になるほど所有欲が減退していることと関係があるかもしれないですね。

 

下吹越──そのような流れが今回の一連のインタビューの根底でつながっているような気がします。

 

馬場──前回の「なないろ畑」の際に話した資本主義の話ともつながりますが、大企業はその矛盾に現在引き裂かれそうになっているわけですね。あの規模を維持するためには、定住型の論理を守らなければならず、そのためにマーケットシェアを拡大しなければならない。しかし社会が急速に変わっていて、それにこだわっていたら自分たちの社会が壊れてしまう。その矛盾にさいなまれているのが今の大企業ですね。

 

下吹越──西田正規さんは『人類史のなかの定住革命』(講談社/2007年)で、人類が定住を選択したことを「定住革命」と呼んでいて、歴史的に見ると、定住社会というのは人類の何万年の歴史のうちのごく一部であり、我々は特異的な社会にいると述べています。それを気候変動なども含めて多角的に論じているのですが、狩猟採集型生活の視点から定住社会を読み解くと、これまでとは違った見方ができるだけでなく、狩猟採集型生活の理解も変わってきます。

 

馬場──現代が狩猟採集型になっているために、働き方に多様性が生まれているというロジックは非常におもしろいですね。

 

下吹越──それがもうひとつのキーワードである「ラスコーの洞窟」にもつながっています。狩猟採集型の生活者がなぜラスコーの壁画を描いたのか。ラスコーの洞窟は、今回のワークプレイス研究の象徴的な場所として位置づけています。その対比軸として1000人を超すスタッフがワンフロア空間で働くユニクロの新本社屋「UNIQLO CITY TOKYO」を設定しました。働き方の多様性を受け入れながらも1000人規模のスタッフをマネジメントする空間です。

 

馬場──たしかに、ユニクロのオフィスはさきほどの矛盾に正面から取り組むような空間ですね。

 

下吹越──グローバルカンパニーがそのような方向に走っている一方で、今の若い世代はそことは違う距離の取り方を探っているような感じがあって、それが狩猟採集型社会のはじまりではないかと感じています。

 

 

[2018.09.25,open Aにて]

インタビュアー:下吹越武人・飯田彩・吉田育未・熊谷浩紀・近藤有希子・万柳慧・

葛西孝憲・川田優太郎・畠山かおり・大江和希

文責:飯田彩