経済重視型ではない、新しい資本主義の模索

 

馬場正尊さんをゲストに迎え、インタビューの内容を振り返りながら、これからのワークプレイスとは何かを考えます。

 

 

下吹越──なないろ畑の片柳さんは強烈なコミュニストであり、エコロジストでもあり、コミューンをつくろうとしている方です。

 

馬場──まだこういう方がいらっしゃるのですね。

 

下吹越──はい。非常におもしろい方です。なないろ畑は神奈川県の中央林間にありますが、都市農園を自立した経営としてどのように成り立たせるかをずっと試みられています。そのなかでCSA(Community Supported Agriculture)という会員制の農業形態に行き着き、現在は出荷場が起点となって会員の人たちがさまざまな活動を始めていて、地域コミュニティの拠点として機能し始めようとしています。

片柳さんは、「畑は美しくなければいけない」と言っていて、合理的でありながらも本当に美しい風景を創り出しています。また、出荷場も画家のアトリエだった建物を譲り受けて使っています。よくあるプレハブのような建物ではなく、磯崎新さんの「新宿ホワイトハウス」を彷彿とさせるキュービックな空間で、片柳さんがそういった美的感覚も大切にしていることが伝わってきました。

そもそも、彼は「イージー・ライダー」という1970年代に日本で公開されたヒッピー文化をテーマにした映画の中の、砂漠で農作物がうまく採れないというシーンを見て、理想のコミューンをつくるためには農業技術が必要だと思ったそうです。

 

馬場──あの映画を見てそう考える着眼点がすごいですね。

 

下吹越──彼は慶應の学生だったのですが、高校生の時に学校に行くのが嫌いで、日吉にある学校の裏の畑を、周りの農家の人に聞きながらずっとひとりで耕していたようです。

 

馬場──あの時代の慶應の学生は大概育ちがいいですよね。その楽観主義がなないろ畑の思想に影響しているのかもしれませんね。

 

下吹越──片柳さんは日本橋生まれですが、欄間職人だった親とそりが合わずに中央林間のおじいさんの家に住んで、慶應に行ってずっと畑をやっていたという筋金入りのおもしろい人です。

 

馬場──僕も最近興味を持っているのが、資本主義のバリエーションを社会が求めているのではないかということです。要するに、儲けなければならない、規模を拡大しなければならないと、呪縛のように日本も含め世界は思い込んでいます。しかし、拡大や拡張することに正義があるのは資本主義の本能ですよね。我々は、そこに突き進めた先に巨大な破綻があり、欲望の先には“無”しかないことをリーマンショックで見て知ってしまいました。

その後、2011年の東日本大震災でも、敷地境界で区分された住宅地が津波で一気に流された瞬間と、被災後すぐにみんなが結束して協力し始めたという風景に出会いました。非常につらい風景の中に新しい幸せを垣間見た人が東北にはたくさんいました。それらは、敷地境界は所有の権化であり、資本主義の権化であるという危惧、象徴の儚さを見る出来事でしたし、その中に未来へのヒントが隠されていたように思います。

とはいえ、資本主義は現段階で、歴史上では最も強度のあるシステムで、今のところ我々はこれから逃れられる感じはしません。社会主義や共産主義などのさまざまな社会実験が20世紀に行われましたが、結局すべて敗れ去っていて、資本主義はまだまだ強そうなフォーマットであると思います。しかし、いわゆる経済重視型の資本主義ではない新しい資本主義を僕たちは求めています。3、40年前のヒッピーカルチャーを今振り返ってみると、資本主義ではない概念でいち早く取り組まれた社会実験と言えます。なないろ畑はそれをカスタマイズしながら、今ちょうどいいところを探っているという印象を持ちました。

 

下吹越──今、なないろ畑は規模とシステムの問題ですごく困っていて、CSAでも会員数が増えると、会員全員に生産物を供給するために産業のようなシステマティックな要素を取り入れなくてはならなくなります。また、お金のやり取りの煩雑さが増えてきて、片柳さんは農業だけをやりたいにもかかわらず、他のことにも奔走しなくてはいけなくなり、ストレスが過大になっています。一方で、規模を小さくするとコミュニティとしては閉じてしまい、会員同士の諍いも起こって、あまりうまくいかないと経験的に判っているので、CSAをどれくらいの規模で活動するのが最適かということに悩んでいるようです。

設立当初から携わってくれている人たちをコアメンバーと呼び、そのうちの十数人を中心に組織を考えようとしています。そもそもなないろ畑は、労働とお金を提供し、その対価として農作物を交換するところです。しかし、お店やスーパーでよい有機野菜を買うのと同じような感覚を持つ会員が増えていることが問題になっているようです。そうなると、本来の共助によって農産物を分け合うシステムとしてのCSAがうまくいかないのです。

 

馬場──巨大な社会実験にはリスクを伴いますし、片柳さんのような人でないと実現までこぎつけることはできないですよね。

 

下吹越──非常におもしろい取組みですが、社会的にはあまり取り上げられていません。農業系の研究者はリサーチに来ていますが、社会学、建築学、コミュニティ系の見学者は僕らがはじめてだと言われました。農業を基軸としたコミュニティ形成論や組織論としてすごく重要な試みですし、都市農業という点も学ぶべきことが多い取り組みだと思いますけどね。

 

馬場──試行錯誤の過程や、何に躓いたのかということが非常に興味深いですね。パラメータが意外なところにありそうだと思います。

 

[2018.09.25,open Aにて]

インタビュアー:下吹越武人・飯田彩・吉田育未・熊谷浩紀・近藤有希子・万柳慧・

葛西孝憲・川田優太郎・畠山かおり・大江和希

文責:飯田彩