経済重視型ではない、新しい資本主義の模索

 

下吹越 ── CSAは有機農業を持続するためにコミュニティを形成しますが、農業を維持することとコミュニティを発展させることは異なるノウハウが必要だと思います。なないろ畑はどのようにして両立しているのでしょうか?

 

片柳 ──今は農業が拡大するほど赤字が増えていく状況に陥っています。はじめは農作業した時間分だけサツマイモが貰える仕組みでスタートし、空いている農地をみんなで協力して耕していました。しかし正式に農家と認められると、仲間という関係からお客さんと生産者という関係に変化していきました。本来はみんなで協力する作業のはずが、お客さんたちは何もしなくなってしまい、お手伝いの人数が足りない分は有給スタッフを雇わなければいけません。すると余分に費用が掛かっています。ですから、コミュニティをつくることのメリットをちゃんと農業に生かされるような仕組みになっていないとダメなのだとわかりました。

 

下吹越 ──著書の中で会員数の規模について触れられています。コミュニティが大きくなるにつれて運営管理が大変になると述べられていますが、野菜の生産量とコミュニティの適正な規模をどのように設定されているのでしょうか?

 

片柳 ──なないろ畑のコアと呼べるメンバーは30人ほどです。動物行動学で個体識別ができるのは30人くらいと述べられています。ですから、なないろ畑のコアメンバーやハーブチームといった派生的につくられるコミュニティでも、30人ほどが限界だと考えています。そしてそういった派生的なコミュニティが重層的に重なり合い、なないろ畑を中心とする面白い繋がり方が発見できればいいなと思います。

 

下吹越 ──建築家の北山恒さんが宮城県白石市の小学校を設計した時、2つのクラスを合わせて60人を1つのグループに見立てた空間構成にしています。クラスが30、40人の単位だと友達と仲が悪くなったりした時に逃げ場がないけれども、その倍の規模だと、あるグループで仲が悪くなっても違う場所に逃げられるので、むしろそちらの方が健全なコミュニティができるんだと聞きました。適正規模はコミュニティの種類によって異なるようですね。

 

片柳 ──コアメンバーは30人ですが、なないろ畑は非会員のボランティアを含めて全体で80人くらいです。やはりいろいろな喧嘩があちらこちらで起きます(笑)。全体が30人のみで固まってしまうと喧嘩した人たちは入りにくいわけですよ。

 

下吹越 ──そうなると持続性がなくなってしまいますよね。

 

ハーブチームのかわいい看板を見つけました。

 

片柳 ──農場では畑内の空き地や飛び地を自由に使って貰って、ハーブや穀物を育てるなどいろいろなサテライトコミュニティが生まれています。会員に自分の好きなことを積極的に見つけてもらい、農場のあちこちにそれぞれの居場所を見つけられるような感じにしていけたらいいなと考えています。その周囲のサテライトという部分を豊かにしていけば、それが逃げ道になると僕の経験から感じました。

 

下吹越 ──サテライトをどのように育成するのかによって母体もまた大きくなっていくでしょうし、会員の選択肢も増え,より居心地が良いコミュニティになるんでしょうね。

 

川田 ──周囲のサテライトを豊かにしていくにしてもやはりコアメンバーの充実が求められると思います。社会一般的には、後継者不足や農業離れといった問題がありますが、どのようにお考えでしょうか?

 

村井海渡(以下:村井) ──僕はもっと人々が農業に参入できるようにハードルを低くしたいです。「僕でもできる、これくらい稼げる」というスタイルを見せていきたいですね。先人の方々同様に農業を後継者に伝えたいですし、若い世代に普及してもらいたいと思っています。しかし若い人は収入が少ないという点で、参入したくても参入できないのが現実です。いろいろと工夫して取り組んでいますが上手くいっていません 。難しいです(笑)。

 

下吹越 ──農業は他の産業と比べると労働の対価が割に合わず、所得が低い状況は改善すべき課題です。本当に難しい問題ですね。他方、コミュニティの観点から見ると、良い農作物をつくっているというプライドを持てることと楽しんでできるということ、先ほど作業をお手伝いしながらこの2つは重要だろうと思いました。農業の楽しさや誇りをどのようにしてみんなにわかりやすく伝えられるかということも、重要な視点ではないかと思いました。

 

村井 ──僕がなないろ畑が本当に魅力的になるために必要だと感じていることは、支えてくれている会員のみなさんが、もっと楽しめるような場所にしていくアイデアを生み出すことだと考えています。そのアイデアがなければコミュニティの原動力が失われるような気がして、もう少し会員のみなさんと農場がうまくコミュニケーションを取っていけたらいいなと思います。

 

片柳 ──この出荷場は、なないろ畑に来る人がちょっとお茶でも飲みながら会話ができたらいいなと思って作りました。CSAを始める前、トラックで野菜を運んで売っていた時は対面販売だったので、いろいろな方が買いに来て野菜の評価をして下さり、いろいろな食べ方や「今年はこんな出来栄えですよ」といった会話が自然に生まれて面白かったです。しかし現在は、コアメンバー以外の会員の方とのコミュニケーションがなかなか上手くいきません。お客さんのような会員は、農業以外のイベントにも一切関わってこないと言っていいほどです。そうした会員は絶対に会話に入ってこないですし、すっと来て野菜を貰って帰るだけです。そういう会員に接すると、何のためにCSAをつくったのか分からなくなりますね。

 

下吹越 ──野菜を介して人と繋がっている手応えがなければ楽しくないということですね。

 

村井 ──ここに来て会話やお手伝いをしてくれている方は、野菜をもらう以外になないろ畑の良さを実感している方だと思います。

 

一般の方にも有機野菜の直売を行なっています

 

出荷場にふと立ち寄った会員さんともお話ができました。

 

下吹越 ──お客さんのような会員は 出荷場に来ても挨拶もしないのでしょうか?

 

片柳 ──そうですね、せっかくみんなで協力して育てた野菜を受け取りに来ているのに、挨拶すらしない方がいらっしゃいます。だからやっていて張り合いがありません。もっとたくさんの方に農業と触れ合っていただきたいです。僕の理想ですが、将来「CSA協会」のようなものを設立することによって、いろいろなところでコミュニティが勝手に湧き上がるようになれば楽しいのではないかと思います。私たち農家が会費を頂いて会員に野菜を提供するのではなく、おいしくて安全な野菜を欲しい方は、自分たちでコミュニティを形成し農業を行う。しかし農業を行うにはある程度の技術が必要なので、「CSA協会」が有機農業の指導やコミュニティ形成を支援することで、だんだんとコミュニティが充実すると思います。

 

畠山 ──お話を聞いて、CSA は農業を充実させるよい仕組みだと感じましたが、一方でデメリットがありましたらお聞かせください。

 

片柳 ──一番デメリットと感じることは、色々諸事情で退会された会員が復帰できないことです。コミュニティの結束が強すぎるせいか、裏切り者のような感じになってしまうのではないでしょうか。結果的に支援していた人をどんどん使い捨てるという感じになっています。

 

下吹越 ──再入会のハードルが高いのもコミュニティが広がらない1つの要因なのかもしれないですね。

 

片柳 ──なないろ畑のような実験農場は実際やってみないと分からないことばかりです。ですから社会心理学的な視点がなければ CSAは できないと思います。

 

 

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